フェルメールと牛乳

フェルメールの「牛乳を注ぐ女」。

 

一月十一日、日曜日は二週間の出張中、最初で最後の休日だ。せっかくなのでアムステルダムの街中へ出ることにする。僕は絵が好きなので、目標はリクスムゼウム(国立美術館)と、ファン・ゴッホ美術館だ。時間と元気があれば、他にもどこかに行くかも知れないが。

朝食後、七時半のシャトルバスで、まずスキポール空港へ向かう。その日も寒い朝。マイナス十度くらい。空港でやることがいくつかある。まず、三十五ユーロで、「バスと市電の市内一日乗り放題切符」と、「博物館美術館どこでも只」切符を購入。それと、厚手のタイツを買って、ジーンズの下に履く。上は山登り用のジャケットで暖かいが、マイナス十度の中、下が一枚ではちと心許ない。最後に、昨夜娘のミドリに書いた手紙を投函。

八時半の電車でスキポールからアムステルダム中央駅へ向かう。オランダの夜明けは遅い。電車の中で、ようやく夜が明けてきた。中央駅からトラム(路面電車)で、リクスムゼウムに向かう。電車は何本もの運河を渡り、十五分ほどで美術館の前に停車した。

ここを訪れるのは二度目だ。リクスムゼウムの見ものは何と言ってもレンブラント。かの有名な「夜警図」がある。畳三枚分はあろうかという、大きな絵だ。それと、ここには僕の好きなフェルメールの絵も何枚かある。「牛乳を注ぐ女」という、ひとりの女性が台所で壷からを注いでいる絵。壷から流れ出す牛乳の筋の描写が素晴らしい。

牛乳と言えば・・・オランダのチーズは有名。つまり、牛乳や乳製品が、他の国に比べてぐっと身近にある国だと思う。例えば、オランダで会議をしたとする。昼になり、参加者にサンドイッチがでる。ここまではどの国も同じ。しかし、飲み物が違う。他の国なら、コーヒー、ミネラルウォーター、オレンジジュースが振舞われるところ、オランダでは、五百ミリリットルの牛乳の紙パックがサンドイッチと一緒に、デンデンとテーブルの上に置かれる。参加者は、その五百ミリリットルの牛乳をグイグイ飲みながら、サンドイッチをほおばるのだ。オランダ人の体格があんなに良いのも、この牛乳のせいではなかろうか。

レンブラントの絵の中にひとりの男が描かれている。どこかで見た顔。そうだ、アムステルダムの情報システムの同僚、エノにそっくりだ。彼も典型的オランダ人。背丈、横幅、厚みともにでかい。そして声もでかい。彼が隣で余りに大きい声で電話をかけていたので、

「エノ、誰と話していたんだい。」

「ロッテルダムの同僚とだけど。」

「君の声なら、電話がなくたってロッテルダムまで確実に聞こえる。」

そんな冗談を彼に言ったことがある。

美術館の前には屋外リンクがあり、子供づれがスケートを楽しんでいた。太陽は照っているが、凍るような風は相変わらず。道路脇には自転車が山のように停まっている。自転車に乗っている人も多い。しかし、気温と運動量から考えると、冬の間、自転車は決して心地よい乗り物ではないはず。でも自転車に乗る人が多いのには目を見張る。

 

スケートをする人たち。後ろは国立美術館。

 

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