最後の一ユーロまで

 

アムステルダム王宮。

 

 このアムステルフェーンのインド料理店、ジェイと僕が四年半前に自動倉庫の立ち上げで数週間滞在したときにもよく来た店だ。インド人の夫婦がオーナー、その夫婦には娘さんがふたりいた。そして、ふたりとも店に出ていた。上の娘さんはなかなかの美人。愛想もよかった。ジェイはその娘さんが気に入っていた。(彼は当時もう結婚していたのだが)僕たちは、店が暇なときなど、注文を取りに来た彼女と、よく短い世間話をしていた。彼女の水色のサリーはよく似合っていた。確か、彼女はもうすぐ結婚するような話だった。

 その夜、注文を取りに来たのはお母さんだった。窓際の席で食事の最中、ベンツが店の前に停まるのが見え、「例の」上の娘さんが降り立った。彼女は店に入って来た。配偶者と思われる男と、赤ん坊を連れて。とたんに、ジェイの機嫌が悪くなる、

「この魚カレーは美味しくない。蒸した魚がいいのに、これは揚げてある。」

とか、

「彼女はこの前スリムだったのに、あんなに太ってしまって。」

とか、彼は、全てにケチを付け出した。アンディと僕は噴出しそうになりながら、そんなジェイを眺めていた。

 金曜日、朝起きて荷造りをし、朝食を食べに行くときに、スーツケースを車のトランクに入れる。テレビでは昨夜から、ニューヨーク、ハドソン川に着水した飛行機のニュースをやっている。何故か僕が飛行機に乗る前に、いつも飛行機の事故のニュースが入ってくる。十日ぶりに背広を着るが、ズボンが十日前に比べて確実にきつくなっている。出張するといつも食べ過ぎて飲み過ぎて、太ってしまう。

 金曜日の昼食、例によってサンドイッチ。しかし、その日は、コロッケサンド、「クロケッテ・メット・ブローチェ」があった。僕のリクエストは最終日になって、やっと聞き入れられたのだ。注文係りのバスが

「アー・ユー・ハッピー?」

と僕に聞いた。

 午後四時に、ジェイとチームの仲間に別れを告げる。ひとりずつ握手をする。皆に「サンキュー」と言われる。

アンディとキャノン倉庫を出て、レンタカーを返しに行く。そこからO次長の運転でスキポール空港に向かい、空港には五時過ぎに着いた。倉庫を出たあたりから、急に疲れが出て、全てがもうどうでもよい気分。別の飛行機に乗るアンディと別れて空港の中に入る。

手持ちの金を調べると三十五ユーロあった。その金を全部使って食べて飲んでやろうと思う。日本のラーメン屋があったので、日本酒、醤油ラーメン、キムチを注文して食べる。まだ十ユーロあったので、寿司バーへ行き、日本酒と細巻を注文。これで全てのユーロを使い切った。午後七時発のロンドン行きに乗り込む。座席に就いたとたん、僕はブラックアウト状態で眠った。ロンドン着陸のショックで目を覚ますまで、僕は眠っていた。

コンベアは続くよどこまでも。

 

<了>

 

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