オランダ契約

 

二〇〇四年、僕はオランダの会社と契約になった。顧客が物流センターをオランダに移すので、それに伴うシステム開発を頼まれたのだ。場所も気分も変わるのは歓迎。僕は基本的にあちこち行くのが好きなのだ。当地へ行きっぱなしではなく、ロンドンでシステムを開発して、それをオランダに持っていくという話だ。引き続き家族一緒にいることができる。僕は契約を受諾し、年初から、オランダでのプロジェクトの一員として働き始めた。

 

最初の数ヶ月は、出張ベースで月に二、三度、数日間オランダで働いた。

オランダはひたすら平らな国だ。波打つような丘陵地帯が続く英国とは違い、どこまでも平坦で、どこでも地平線が見える。そして、地平線の上の雲がよく見えるので、僕には雲のきれいな国だという印象だった。平らな土地に、やたらに大小の運河が通っている。市街地の中に入り組んだ路地のような運河に、大型のクルーザーがデーンと係留されているに驚いたことがあった。

平らな国なのに、高速道路を走っていると、しばしばトンネルに出会う。運河の下をくぐるトンネルだ。運河と道路が交差するとき、運河、つまり水を持ち上げたり、掘り下げたりはできない。それで、比較的融通の利く道路の方が上がったり下がったりするのだ。橋にしてしまうと、その下を背の高い船を通さなくてはならないので、とてつもなく高い橋が必要だ。それで、必然的にトンネルが多くなってしまうのだ。トンネルの入り口で、頭上を船が通っているのを見るのは、非常に不思議な感じがする。

橋もいっぱいある。大きな運河の上に掛かる高速道路の橋は、たいていが開閉式。ロンドンのタワーブリッジ式に上に開くものもあるし、水平に回転式のものもある。船を通すために一度開くと、最低でも五分は待たされる。

「ええー、さっきの町でも橋が開いたのに、ここでもまた。今日は運が悪いな。」

運河悪い、つまらないシャレ。しかし、この橋の開閉に出会うかどうかで、その日の運勢が占える。

 

そして、オランダは、ひたすら風の強い国だ。出張中、朝時間がある時にジョギングをする。そのとき、ほとんどの場合、外には強風が吹き荒れている。それは季節に関係ない。冬の間だけかと思ったら、春になっても、初夏になっても、風は収まらなかった。外に出てみて、たまに風がないと、「あれっ」と、はぐらかされたような気分になる。

オランダは風車の国である。風がエネルギーとして当てにできるということは、とりもなおさず、常に強風が吹いているということだ。さすがにその強風を利用しなくては損だということか、ロッテルダムの町から海岸に掛けては何百基もの風力発電の白い風車が立ち並び、昔の飛行機のようなプロペラを回している。

 

僕は、ドイツと英国に住んだことがある。両方の国からほんの目と鼻の先なのだが、オランダはそれなりの特徴を持った国であった。

 

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