ブダとペストでブダペスト

 

先週、顧客から、ハンガリーのブダペストに一泊で行ってくれと依頼があった。そのときも、仕事以外の事は何も期待してはいなかった。

当日の朝、ヒースロー空港からブダペスト行きのブリティッシュ・エアウウェイズのボーイング七六七型機に乗り込む。二百五十人乗りの七六七型機は通常大西洋路線など長距離に使われる飛行機なのに。不思議な感じがする。案の定、大きすぎる機体に、席は三割も埋まっていない。

読書と仕事の下調べをしているうちに昼にブダペスト空港に到着。空港で、出迎えのOさんと、最近ずっとタッグを組んで仕事をしているMさんと落ち合い、空港から程近い仕事場へ向かう。私の顧客は運送業が多いので、たいてい仕事は空港の近くなのである。そして、空港は間違っても、街の真中にはない。街のど真ん中にあったらうるさくて堪らない。それで、ほとんど街外れ。空港の近くで夜まで仕事をして、飯食って、ホテルへ帰って、酒を飲んで眠る。それが出張中の日課。その日も、そのつもりで、私は仕事をひとつづつこなしていった。

夕方、仕事が一段落したとき、Oさんが、

「先ずホテルでチェックインを済ませて食事に行きましょう。」

と言ってくれた。

「ホテルはこの近くですか?」

と聞くと、

「いいえ、街の中です。四十分くらいかかります。」

との返事。今日は、街の中をちょっとくらい覗けるかも知れないなと、ちょっと期待する。

 Oさんの運転で、Mさんと私は街の中心へと向かう。ブダペストは「ブダ」と「ベスト」が一緒になった街だと聞いたことがある。Oさんにそれを確かめると、私たちは今「ペスト」にいて、これから橋を渡って「ブダ」に入るそうである。

 辺りは真っ暗だが、市街地は灯りがまぶしい。旧共産圏とは思えない明るい町並みである。建物が白いからであろうか。明るい雰囲気がミュンヘンに似ていると思った。

ドナウ河にかかる橋にさしかかる。Oさんが言う。

「このエリザベート橋からの景色は最高ですよ。」

 街の真中をドナウ河が流れ、その右側には今通り抜けた市街地が広がっている。左側は小高い丘になっていて、その上には王宮と、教会がライトアップされて立っている。両岸を、これもきれいにライトアップされた吊り橋「クサリ橋」がつないでいた。それらの無数の灯りが、黒いドナウ河の川面に静かに映っている。Mさんと私は、車がエリザベート橋を渡っている間、驚嘆の声を発しながらその景色に見とれた。

 ブダペストは「ドナウの真珠」と呼ばれているらしい。クサリ橋の灯りは、真珠のネックレスを橋に沿って掛けてあるように見えた。