お父さんのぼやき

 

構内に川が流れ、橋が架かる、セント・ジョンズ・カレッジ。

 

 「トリニティー・カレッジ」を出たY君は、今度は「セント・ジョンズ・カレッジ」に入って行った。そこは観光客立入禁止ではないものの、門の前に「入場料、一人二ポンド七十」という札が架かっていた。Y君はそんなものは目に入らない様子。またスタスタと中に入っていく。僕たちも慌てて彼の後を追う。

 「セント・ジョンズ・カレッジ」の敷地は広い。第一の中庭を通り抜けると広い芝生の広場に出た。敷地内に川が流れていて、一見ベニス風の橋が架かっている。川には、これも一見ベニスのゴンドラを思い浮かべるボートが浮かんでいる。このボート、「パント」という名前だそうだが、棒高跳びの選手の持つのにそっくりの棒で、川底を突いて進む。乗客は座っているが、「船頭」は棒を持って立っている。「船頭」役は、学生アルバイトなのか結構若い人が多い。若い女性が船を操っている様は微笑ましい。乗客にも学生と思しきカップルがいる。

 Y君が、目の前に広がる芝生の広場を指して、

「ここからは夕日がきれいなんです。」

と言った。おそらく、夏などは、学生のカップルが、ここで肩を抱き合いながら、沈む夕日を見ているのだろう。学生時代って素晴らしい、ペギー葉山・・・

 しかし、大学生の子供を持つ親として思わず別のことを考えてしまう。幸せ一杯に、自由と青春を謳歌している若人の影には、せっせと働いて、学費を工面している親がいるということを。Y君も、道行く学生さんたちも、実に幸せそうな顔をしている。僕も今振り返ると、学生の頃が一番、精神的にも、時間的にも自由を感じていたような気がする。

「そやけど、それもお父ちゃん(またお母ちゃん)のお陰なんやで。」

と、思わず説教したくなった。「ぼやき漫才」の人生幸朗になった気分。

 Y君と僕たちは「セント・ジョンズ・カレッジ」の建物の中に入り、「関係者以外の立入を禁ず」の立て札など無視して進んでいく。カレッジの外側は、古いレンガ造りの建物だが、中にある建物には、新しく、近代的なものもある。しかし、それらは外からは見えないように高さも、位置も考えてあるようだ。

 セント・ジョンズ・カレッジを出る。ポヨ子さんは、ここでも志願者用のパンフレットを貰っている。貰うときに、住所氏名と学校名を書いているようだ。

 外に出て、先ほどY君に会う前に少し覗いた、「キングス・カレッジ」に向かう。街中を黒いマントを着た人たちが多数歩いている。大学の教授なのだろうか。「オペラ座の怪人」が街にウヨウヨしているみたいな光景だ。Y君によると、学生は大学に入ると、マントを支給され、公式の場では、それを着用しなければならないと言う。

 「キングス・カレッジ」に入る。「トリニティー」、「セント・ジョンズ」そしてこの「キングズ」の三つが、街中では古くて規模も大きく有名なカレッジとのことだ。礼拝堂が一時まで閉まっていたので、僕たちはY君の学ぶ「文学部」を先に見ることにした。

 

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