ギャランティー、毎日良い天気

 

クレタの山道を行くヒュンダイ。道が狭いので小さい車が好都合。

 

六月二十五日、また六時前に起きて日の出を見る。ワタルも起きてきた。彼と一緒に見る。ワタルは太陽があっと言う間に昇るので驚いている。太陽が二分で一個分動くことは知っていても、中天にあると、動いているのかどうかほとんど分からない。

マユミも日の出が見たいと言っていた。しかし、彼女を起こそうと思っているうちに日が昇ってしまった。まあ良い。ヘミングウェーではないが、「陽はまた昇る」。どうせ明日も良い天気に違いないのだから。明日もまた「必ず」日の出は見られるのだ。

クレタ島の強みは、夏の間、毎日晴天が「ギャランティー」されていることだろう。旅行案内書によると、五月の中旬から九月の中旬まで、ほとんど雨が降らないことになっている。誰かが仕事と金をやりくりして、年に一度二週間の休暇を取ったとする。せっかくの休暇だもの、誰もがその期間良い天気になることを祈るだろう。スコットランドも確かに美しい場所だが、二週間滞在して「確率的に」晴天が期待できるのはほぼ半分の日数。ひょっとしたら二週間ずっと雨なんてこともあり得る。その点、クレタ島では七月に雨の降る確率が限りなくゼロに近いのだ。マユミが言った。

「英国人が休暇の行き先に、スコットランドではなく、地中海の島々を選ぶ気持ちも分かるような気がする。」

皆が起きてくるまで、絵を描いている。昨日行ったハニアの「ヴェネチアン・ハーバー」の絵。飯を炊き、朝食に味噌汁を作る。残った飯で、握り飯を作っておく。九時になり下のプールで少し泳ぐ。今日も「当然」のことながら、天気は最高。そして、風が強い。

九時半、レンタカー屋の若者が現れ、グレーのヒュンダイの車を置いていく。四日間借りて、百四十ユーロだった。

十時半、早速借りたばかりの車に乗って四人でドライブを始める。行き先は「インブロス・ゴージ」。「ゴージ」(gorge)という単語、恥ずかしながら、クレタ島に来るまで知らなかった。「峡谷」と言う意味らしい。「キャニオン」と訳してある地図もある。ともかく、クレタ島は二千メートルを越える山々が連なっている。その山に刻まれた深い谷「ゴージ」をトレッキングするのが、クレタ島の名物になっているらしい。一番有名なのは全長十八キロの「サマリア・ゴージ」だ。そこへはバスでないと行けないし、一日がかりの日程となる。今日行くところは、それより少し小ぶり、全長八キロの峡谷だ。

二千メートルを越える山々が海に迫って聳えているクレタ島では、内陸に向かうと、道はすぐにつづれ折りの山道になる。そうなると、鈴鹿サーキットのヘアピンカーブがずっと続いているようなものだ。

途中ヤギに出会う。シカほどの大きさで、立派な角を生やしている。リーダーらしいヤギは首にベルを付けており、歩くと「カランカラン」と音がする。「アルプスの少女ハイジ」の世界。ヤギは島全体に放牧されているらしく、山道を走っていると何度もヤギの群れに出会った。突然道を横断してくるので、ぶつからないように常に注意が必要だ。

 

出遭ったヤギ。シカほどの大きさがある。

 

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