日曜はダメよ

 

ペレオハラ、プライベートビーチからの風景。水は少し冷たい。

 

「日曜はダメよ」(原題Ποτέ Την Κυριακή、英語題Never on Sunday)、まだ見たことがないが、一九六〇年公開のギリシア映画だ。その音楽はアカデミー賞を取った。この前ハニアで買ったCDの中にもそのテーマ曲が入っている。聴かれた方も多いだろう。

ペレオハラを発つ際、車のガソリンが少なくなっていたので、ガソリンスタンドへ寄る。閉まっている。日曜日はガソリンスタンドも休みなのだ。もう一軒、街中のガソリンスタンドを見つけ、立ち寄るがやはり閉まっている。

「これはえらいことですよ、ホントにえらいことですよ。」

と僕はつぶやく。車のガソリン・メーターはほぼゼロを指している。このまま山越えの道を戻れば、山の中でガス欠を起こしてしまう危険がある。しかし、僕らはカリヴェスに帰らなければならないし、車は明朝レンタカー屋に返さねばならない。車をこの場所に置いていくことはもちろん出来ないし、車なしでカリヴェスに帰ることもできない。これは困った。

僕は賭けに出た。どんな車でもガソリンメーターがゼロになった後、ニリッターや三リッターは残っているものである。小さなエンジンのヒュンダイを、上手に運転すれば、リッター十五キロは走るはず。そうすると三リッターで四十五キロは走れることになる。四十キロ走れば山を越えて北側の高速道路まで戻れる。多分、高速道路沿いのガソリンスタンドは開いているはず。そこで給油すれば何とかカリヴェスのアパートまでは帰り着けるのではないかと、希望的に思った。

運転はもちろんベテランの僕。ブレーキを踏まないように、ずっと経済速度、時速五十キロで運転を続ける。ペレオハラからはずっと上り。集落と集落の間は時には五キロ近く離れており、行き交う車も少ない。山道のど真ん中でガス欠を起こしたら、助けを呼ぶだけでも大変なことになる。

峠の小さな村を通る。見逃してしまいそうな小さなガソリンスタンド、ドアが開いている。慌ててハンドルを切って乗り入れると、おばさんが出てきた。

「やったあ、開いている。」

英語もドイツ語も全く理解しないおばさんに、フロントガラスに薄く積もった埃の上に「十五」と指で書き、十五リッター、ガソリンを入れてもらう。金を払った後、マユミがおばさんに、

「エフカリスト(有難う)。」

とおばさんに言っている。本当にそのときはそのおばさんが神か仏に見えた。こんなに心のこもった「エフカリスト」はこの世にないはず。

僕たちは無事アパートに帰りつき、夕食までの時間をプールで過ごすことができた。ペレオハラの冷たい水の中で、急にクロールで泳ぎだし、肉離れを起こしたようだ。肩に痛みが走る。車もないし、肩も少し痛いし、明日はとにかく休養に努めようと思って、床についた。

ビーチでくつろぐ。向こうの少年は熱心に英語の「ハリーポッター」の本を読んでいる。

 

<次へ> <戻る>