その名はヘンリー

 

会社の向かいはドイチェポスト(郵便局)の集配所。ここと食堂を共有している。

 

 八月四日。六時前に起きて森の中を三十分ほど散歩する。出張をすると、ついついカロリーの高いものを食べ、運動不足になる。もともとコレステロールの値が高く、過去に心臓の血管が詰まったことのある僕にとって、出張は余りよい環境ではない。時間を見つけてできるだけ歩くようにする。朝食も、美味しいドイツのハムやソーセージは我慢し、スモークド・サーモンと酢漬けニシンをパンに挟んで食う。魚の不飽和脂肪酸はコレステロールを体外に排出する働きがあるそうな。

 七時半に出社。今日は荷物を積んだコンテナが八時に到着する。僕の今日のメインの仕事は、その荷物を新しいシステムで入庫処理すること。いやどう処理するのかを、倉庫作業員の皆さんに教えることだ。

 八時半に倉庫へ行ってみると、コンテナは到着していたが、作業員の皆さん、パレットとコンテナの天井の隙間にギュウギュウにバラ積みされた箱を下ろすのに苦労をしていた。三十分ほどしてまた行くと、今度は、パレットの高さが連絡を受けていたのよりも僅かに高く、棚に入らないので、棚の横桁を組み替えているところだった。結構時間のかかる作業。十一時ごろに、やっとコンピューターの端末を使った処理が始められることになった。僕がまずやり方を説明し、それを皆さんにやってもらう。それが終わったのが午後二時。

「ああ腹減った。」

と言いながらオフィスに戻ると、クリスティアンがやってきて、両手に持ったサンドイッチを僕の前に差し出す。

「サラミとチーズどっちがいい?」

サラミを選ぶ。サンドイッチを買っておいてくれたらしい。相変わらず気の利く人だ。

「今日、仕事が終わったら、わたしの新しい家を見に来ない?」

とカロラが言う。どうせ夕方は暇だ。ピアノの練習も犬の散歩もないし。クリスティアンと僕はカロラの家に行くことにした。

「わたし、新しい車も買ったの。ヘンリーって言うの。」

とカロラ。彼女は、自分の車に名前を付けるという奇妙な「性癖」がある。新しい車は「ヘンリー」、前の車が「ムービー」、その前の車が「ソフィー」という名前。どのような基準で、車が男性になったり女性になったりするのか、その判断基準は分からないが。

 午後五時になり、特に残ってやるほどの仕事もないので、カロラ、クリスティアンと一緒に会社を出る。カロラの家までは、彼女が先導することになっていた。僕が先に門を出て待っていると、追い越していった背の高い濃い緑のクライスラーが三十メートルほど前に停まった。キザな車。窓ガラスがスモークになっているので、誰が運転しているのかよく分からない。その後ろにクリスティアンの赤い車が停まった。と、言うことは、ひょっとして、あの「いかつい」車がカロラの「ヘンリー」!?僕は、そこでカロラの「命名基準」が分かったような気がした。

 

新しい豪邸のリビングでくつろぐクリスティアンとカロラ。

 

<次へ> <戻る>