ヨーロッパの朝食

 

 ヨーロッパのあちこちを訪れ、その土地の料理を食べるのは楽しいことである。今回はその中でも、各国の朝食に注目してみたい。

 これまでで、最も愛想の無かったのがイタリアの朝食である。イタリア料理は大大好きであるが、イタリアの朝食はほんとにいい加減。ホテルに泊っていて、朝フロントへ下りていって、「朝食はどこ?」と聞くと、フロントの隣のバーだという。バーであるから椅子は無い。中の兄ちゃんが何を飲むかと聞く。「テ・コン・リモーネ」(レモンティー)と答える。カウンターの上の籠に盛ってある、小さなクロワッサンかブリオシを一、二個取って食べてそれでお終い。両方ともお菓子みたいで張り合いがない。それと、せめて座って食べたい。しかし、これがイタリアでは当然であるらしい。朝早くから開いている街角のバーでも、皆立ったままコーヒーを飲みブリオシをほおばっている。まあ、日本でも、駅のスタンドや、立ち食いソバで朝食を済ませている人はいっぱいいるけれど。

 それより少し愛想のあるのがフランス。基本的にパンとコーヒーか紅茶と言うパターンは変わらないが、フランスパンはまあまあ美味いし、バターとジャムも付く。「カフェ・オ・レ」を注文するとミルクとコーヒーが別のポットで出てくる。朝から大量のミルクが飲めるのは健康的である。しかし、私には物足らない。何故か。それは塩気がないからである。もともと日本人の朝食の基本は、味噌汁と漬物。塩味である。パンにジャムをつけて食べ、それにミルクコーヒーを飲んでいると、チーズでも何でもいいから、「もっと塩気を」という気分になる。それと、個人的には、せめて卵が欲しい。

 塩気の願いを叶えてくれるのが、ドイツ、オーストリア、デンマークというゲルマン系の朝食である。基本が黒パンにハムとチーズ、ゆで卵、濃いコーヒー。味わいの深い黒パンの上に、脂肪がギトギトのハムと、匂いのきつい地元産のチーズを乗せ、苦いコーヒーで流し込む。これも慣れるとオツなものである。高血圧と高コレステロールの人にはお勧めできないが。質実剛健、ゲルマン民族の味がする。しかし、まだ何か物足らない。そう、ヴィタミンがない。野菜と果物がないのである。せめて、トマトとキュウリのプチサラダでも付いてくればと思うが、ドイツやオーストリアでは朝からサラダを食う習慣はない。

 朝からトマトが食えるのが英国である。英国人の作るものは、全て不味いと断言してよいが、唯一の例外が朝食である。「イングリッシュ・ブレックファスト」は世界に誇ってよいと思う。カリカリに焼いたトースト、ソーセージ、ベーコン、スクランブルド・エッグと呼ばれるビショッとした炒り卵、甘ったるいベークト・ビーンズ。栄養のバランスもボリュームも他国の朝食を陵駕している。そして、なくてはならないものはベークド・トマト、つまり焼きトマトである。オーブンでトマトを焼くと、皮があるので形は保たれるが、中はグジュグジュになる。最初は「何じゃこれは」と思ったが、それなりに美味しい。これが無かったら英国風朝食は画竜点睛を欠くというものは何かと訪ねられたら、躊躇なく焼きトマトであると私は答える。普段は付け合せのトマトがここでは主役なのである。