再びドイツへ

ケルン大聖堂をバックに。

 

 水曜日、飛行機は午後八時半前にヒースロー空港に着陸。しかし、「ハンガー」が故障とかで、三十分以上機内で待たされた。やっと飛行機から降りたが、第五ターミナル内の移動と、第五ターミナルからバスターミナルまでの移動に、二回も電車に乗らねばならなかった。バス停に着いたのが午後十時、帰宅したのが十一時前。ドイツのオフィスを出てから七時間が経っている。飛行機とは、全くもって非効率的な乗り物である。

 木、金曜日とロンドンで過ごした。土曜日の朝、いつものように六時十五分前に目が覚める。日本から帰って、まだ三週間も経っていないことを、ふと思い出す。しかし、日本であった色々なことは遠い昔のことのよう。試験が目前に迫っている末娘のスミレを家に残し、七時過ぎに妻のマユミとふたり車で出発。月曜日と同じように、会社に車を停め、空港バスでヒースローに向かった。

 今日の航空会社はルフトハンザ、第二ターミナルなので安心。事実、出発までは至極スムーズであった。飛行機は定時九時四十分にヒースローを飛び立ち、正午少し前に、ケルン・ボン空港に着陸した。ドイツの天気は三日前と変わっていない。晴れ間は見えるが、気温は低い。

息子のワタルとは、一時十五分前に、ケルン大聖堂の前で待ち合わせていた。大聖堂は、中央駅から歩いて一分。妻と僕は、空港駅からSバーンに乗って中央駅に向かう。Sバーンは、昔で言う国電、都市の近郊を走る電車で、大抵二十分から三十分おきで、毎時決まった時間に出ているので、便利である。Sはドイツ語の「シュタット、街」の略である。

 ライン河を渡り終わったところが中央駅。駅を降りて外に出ると、大聖堂が黒々と聳えている。何回となく訪れたが、今回は久しぶりであるせいか、大聖堂は一段とでかく見えた。正面に茶色いコートを着た息子が座っているのを発見。

「おーい、ワッチン」

と呼びかける。彼は近づいて来て、先ず妻と、それから僕とハグをした。

 妻と僕は近くにホテルを取っていた。まずホテルでチェックインを済ませ、荷物を置くことにする。ワタルがUバーンに一駅乗ると言う。(本来Uはウンターグルント、地下を意味するのだが、ケルンのUバーン路線の大半は地上を走っている。)

「切符は買わなくて良いのかい。」

と息子に尋ねる。

「大丈夫、僕は学生パスを持っているから。」

「お前は良いけど、パパとママは無賃乗車じゃん。」

「大丈夫、大丈夫、土曜日の午後みたいに混んでるときは、まず調べに来ないから。」

と言うことで、その日の午後、息子にそそのかされた妻と僕は、何度も薩摩守を決め込んでしまった。「見えないところでも正直であれ」というのが「モトのモットー」のひとつなのに、本当にもう。  

 

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