結婚式の正装

 

 結婚式に参加する人の服装は、男と女でずいぶん違う。

男の方はというと、ワイシャツかポロシャツに、ちょっとタプタプした綿のズボンか、腰巻。どう考えても、お父さんが銭湯にいくか、近所に将棋を指しに出かけるという格好である。やはり涼しいのが一番なのだ。私も最初の日は、ネクタイを締めていたが、誰もネクタイなどしていないから、二日目はやめた。Kなど、暑いから明日はTシャツと半ズボンで来たらとまで言ってくれた。しかし、そこまでして、日本人を始めて見る人たちに対して、変な日本人観を植えつけるといけないと思い、ネクタイをはずすだけにしておいた。

普段着同様の男性に対して、女性はきらびやかである。その地方では、女性はみなサリーを身に着けているが、おめでたい席には、それ相当の、晴れ着サリーを身に着ける。たくさんの女性がシルクのサリーをまとっている。眼の覚めるような色彩に加え、シルクだけに深い光沢がある。色とりどりのサリーには、金の糸が縫いこんである。ある女性に、じっくりと見せてもらったのだが、金の糸は刺繍ではない。西陣織の金襴のように布に織り込んである。サリーファッションは、同じ色の丈の短いシャツを下に身に付けて、その上に長い布を巻きつけている。シャツは体にぴたりとしているが、別にファスナーなどは付いていないので、上からかぶるんだろうと思う。顔の彫りの深い、憂いを含んだ眼をしたインド美人が、サリーに身を包んでいるのを見るのは、本当に眼の保養になる。

少女たちは、まだサリーではないものの、簡単サリー型ワンピースみたいなものを着ている。そして、少年たちはと言うと、やはり普段着である。

花嫁、花婿を特徴付けるのが、首から下げている花輪である。本当の花の花びらを集めて花環にしたものである。基調は白い花びらであるが、赤と緑でアクセントがつけてあり、太さは五センチくらいもある。これで、誰が花嫁で花婿か、一目で分かる。花輪は街のあちこちの露天で売っており、日常的に、女性は長い髪を後ろでまとめて、花輪を結んでいる。自然で好感の持てるファッションである。

面白いのは、ヒンドゥーの僧侶たちが上半身裸である他、Kのお祖父さんや、花嫁のお父さんが儀式で舞台の上に登場するときは、必ず上半身裸である。ということは、ここでは、服を着ているより、裸の方がフォーマルと言うことかも知れない。暑いとすぐ上半身裸になるので、外国でヒンシュクを買っている英国人にとってはいい場所かもしれない。

基本的に誰も靴下を履かない。暑くて湿気の多い国では、靴や靴下ほど非実用的なものはない。町を歩いている人たちを見ても、裸足が三分の一、サンダルが三分の二くらいか。裸足、裸が自然に生活に溶け込んでいる土地であった。

私は、個人的にサリーを着ている女性が気に入った。サリーを着ている女性を同伴して歩いてみたいと思った。それで一度は妻にサリーを買って帰ろうかとも思った。でも、サリーはやはりインド人の顔と肌の色にしか似合わないなと思い直し、結局買わなかった。