懐かしの七十年代

 

 日曜日の朝、Bさんは奥さんに言われてテニスの約束を思い出し、午前中は皆でテニスをした。午後になって私は海の近くでジョギングをした。カラッとした天気なので、やたらと外で運動がしたくなる。最初はウッドチップ(木の皮)を敷き詰めた散歩道を走っていたが、そのうち砂浜を走った。サーフィンをする人、ジョギングをする人、抱き合う若い人、西海岸のプロモーションヴィデオの一場面の風景がそこにはあった。

 夕方、ご主人のBさんが子供たち二人を映画に連れて行くことになった。私とY子さんはふたりきりでどこかで食事をしていいと言う。それじゃあ、この機会に日本人ふたりで旨いものを食べようということで、Y子さんお薦めの寿司屋へ出かけた。

 二人でカウンターに座り食べた寿司はとても海外で食う寿司とは思えないくらい美味しかった。特に貝類がいけたし、初めて食った「白マグロ」も上に乗った生姜とよく合っていた。鯖も上に薄い昆布が乗っているのが嬉しかった。最後に「カリフォルニア巻き」を食った。その頃にはかなり満腹であったのだが、カリフォルニアでカリフォルニア巻きを食うというつまらないことに私はこだわったのだ。ちなみにそれはカニとアボカドに白ゴマをまぶした裏巻きであった。

 Y子さんとは幼な馴染であるので、旨いものを食い、幸せな気分になったふたりの会話は当然子供の頃へと戻っていく。同級生のこと、学校の行事のこと、当時流行った歌やテレビ番組のこと。まあ、ふたりだけで同窓会をやっているようなものだから、同窓会で通常語られることが、その場でも語られたと考えていただければよい。

 NHKに「みんなの歌」という番組があった(今もあるかも知れない)という話題。

「わたし、その中でとても気に入った曲があって、楽譜も送ってもらったことがあったの。『約束』っていう歌なんだけど。」と彼女が言った。偶然にも私はその歌を知っていた。

「鮭や白鳥が今年も北国に帰ってきてどーのこーの、って歌だろ。」

ふたりは寿司屋でその曲を歌いした。そうなると止まらなくなって、帰りの車の中で、中学校のクラス対抗合唱コンクールで歌ったウェーバーの「狩人の合唱」を歌い始めた。しかし彼女はアルトで私はテノールだったので、メロディーがなく、今ひとつではあったが。しかしお互い二十年以上たって、まだ歌詞を覚えていることに驚嘆し、満足した。

 Y子さんの家に戻っても、「宇宙少年ソラン」の連れていたリスの名前は何だとか、「サンダーバード」の兄弟の名前が全部言えるかとか、「アタックNo1」の鮎川こずえの相棒は誰だとか、ふたりで一九七〇年代のテレビ番組ネタのクイズを延々とやっていた。

 そのうち、彼女は電話を取り上げ、国際電話で日本の同級生を呼び出し、同じクイズをし始めた。ロサンゼルスの日曜日の深夜は日本では月曜日の午前中。勤め人なら働いている時間である。一応、彼女もそれは考慮し、自由業や大学教授の友人を選んだようであるが、それにしても。仕事中に電話を取り、いきなり「ソランの連れてたリスの名前知ってる?」と尋ねられた相手の狼狽した顔を想像すると、笑いを禁じえない。