呪いの船、クイーン・メリー

 

クイーン・メリーなのに「タイタニック」のテーマを歌ってしまう筆者。

 

日曜日の朝、また海岸を走ってみた。(そう言えば、ロサンゼルスに来てから、毎朝走っている。)今回は、サイクリングロードではなくて、波打ち際を走ってみた。サーフィンをしている人たちが身近に見える。皆大きな波が来るまで、沖でプカプカ浮いて待っている。砂浜を走るのは結構ハードで、疲れが足でなくて腰に来る。三キロほど砂浜を走ったが、帰りはめげて、サイクリングロードを戻った。

ロサンゼルスの南にロングビーチという港町がある。そこにかつての豪華客船「クイーン・メリー」が係留されているというので、Y子さんと娘さんと三人で、見に行くことにした。船は現在ホテルとレストランとして使われているという話で、Y子さんは何度か、船のレストランで食事をしたことがあるとのこと。ロマンチックな食事なのである。

高速道路に既に「クイーン・メリー」という標識が出ている、その先に、確かにでかい船が見えてきた。八万一千トン、「タイタニック」より大きいのだ。ロシアの潜水艦が横にあり、それも中が見学できるようになっている。何故、ロシアなのか、謎である。

船内のツアーがあるというので、切符を買って、岸壁から船へかかったブリッジの上で待っている。そのとき、ツアーと言うのは、船のエンジンや、船室や、いろいろな施設を見せてくれるものだと思っていた。しかし、実際は全然違っていた。

時間になって、船の中に入ると、いきなり暗い部屋に通された。スクリーンが付いている。船の乗組員風の制服を着た、やたらよく通る声の若い金髪のお姉さんが、「この船は、呪われた船なのです」と語り始めた。それから、この船の中で何人死んだとか、戦争中、この船と他の船が衝突して、相手の船の乗組員が何百人死んだとか、そんな説明がスクリーンに映し出された。

次に連れて行かれたのは、船内のプール。ここで溺れ死んだ少女の幽霊がでるとか。説明の途中、真っ暗になったかと思うと、一箇所にボーッと灯りがつき、「キャーッ」と言う悲鳴が聞こえる。ここってお化け屋敷なの。それからも、突然ドライアイスの煙が出たり、水が出たりして、Y子さんが「ユニバーサル・スタジオみたいね。」と言った。まあ、船を繋いでおくだけでは、誰も見に来ないだろうから、「呪われた船」というのを売り物にして、客を集めようとしているのも分かる。それにしても、演出がとてもアメリカ的だと思った。

説明を読んでみると、「クイーン・メリー」は確かに不幸な船ではある。一九三六年に処女航海をした後、間もなく戦争が始まり、戦闘員の輸送船として使われた。戦後、一九四六年に、大西洋航路の客船として復帰したが、間もなく飛行機の時代が始まり、誰も船に乗らなくなり、活躍の期間は短かった。引退して一九六七年にはロングビーチに来たと言う。

ツアーが終わって、船内のレストランで食事をして、後ろのデッキに行ってみた。後ろには、最新式の客船が停泊している。これは動くやつ。やっぱり、船は、こうして繋がれているだけでなく、大海原を走らないとつまらないなと、僕は思った。