清水の舞台と空港

 

 岬をトレッキングしていると、上空を飛行機が次々と通過していく。今日は月曜日。私たちはポルトガル航空の定期便でこちらへ来たが、チャーター便で来る人は、月曜日に着いて、月曜日に発つことになる。航空会社もまとめて客を運べるし、ホテルとしても、宿泊客がある日一斉に入れ替わってくれた方が、効率が良いわけである。今しも、ヨーロッパ大陸からの客を乗せた飛行機が、続々とマデイラに降り立っているのである。

 岬めぐりを終えた私たちは、島の南の海岸沿いにフンシャルへ戻ることにした。マチコからまた高速道路が始まる。しばらく行くと、目の前に巨大なコンクリートの柱が何十本も立ち並んでいるのが見えた。コンクリート柱の上には屋根がついている。その屋根の上に、飛行機が着陸していくのが見えた。コンクリートの柱は、空港の滑走路を支えるものであった。

 後で、サンタ・カタリーナ空港の写真や模型を見て、私は感動してしまった。山を削って何とか作った平地では、滑走路が短すぎる。それを補うために、清水の舞台(きよみずのぶたい)式に、滑走路を海に向かって迫り出させているのである。通常、エアバス三二〇、ボーイング七三七クラスの小型ジェット機でも、離着陸するには千五百メートル程度の滑走路が必要である。マデイラ空港の場合、地面の上の滑走路は半分強で、残りは「清水の舞台」の上を飛行機が走る。ジェット機が離着陸できる空港のあることが、多数の観光客を受け入れる必要にして最低条件だとは言いながらも、よくもこんな大規模な構造物を、小さい島に作ったものである。

 それと島中に掘られたトンネルにも恐れ入ったという感じ。昔は、岬や湾をぐるりと回って道ができていたのであろう。隣の部落に行くには、チマチマと海岸に沿って走るか、クネクネと山を越えていたのであろう。しかし、現在、主要道路は、岬があるとズドンとトンネルを掘っている。町と町、村と村はトンネルで繋がっていると言っても過言ではない。もちろん、このトンネルにしろ、一朝一夕に出来上がったものではなく、何十年にも渡り、少しずつ掘られていったのだとは思うが。ともかく、このマデイラには莫大な額の投資がされていることが分かる。数十万人の住人や、バナナとワインのためにそんな金が使われるわけはない。これ全て観光に対する投資なのであろう。

 妻や娘は、空港やトンネルには余り興味がないらしく、

「ここの空港すごいね。」

と言っても、

「それがどうしたの?」

と言う感じ。やはり、男と女では感じるものが違うものなのか。

 フンシャルの少し手前のサンタ・クルズという小さな漁村で高速道路を降り、そこで、水や果物の買い物をした。妻によると、果物などは「嘘みたいに安い」そうである。絶海の孤島であるのに、物価の安いことを、私も後で感じることになる。

 

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