ガソリンはガソリン、ラヴァダはラヴァダ

 

 その日、再び「リコの滝」に挑んだが、エンクメアダ峠で既に雲に突入して断念。その日は島の南側の海岸を回ることにした。山道を走っている間に、だんだんと車のガソリンの残量が心配になってきた。山を降りたら、どこかで給油した方がよさそうである。海岸沿いに、いくつかの町や村を通り過ぎる。しかし、ガソリンスタンドがなかなか見つからない。途中、ポンタ・ド・ソルという結構大きなホテルもある場所を通ったので、ここならガソリンスタンドがあると、期待して町に入った。しかし、それらしきものは見当たらない。私は、妻に誰かに尋ねてくれるように頼んだ。

 緑の制服を着た駐車場の整理係の青年に、妻が窓から「ペトロル・ステーション」はどこにあるかと英語で尋ねている。しかし、そのお兄ちゃんは英語を理解しないらしい。ガソリンは米語で「ギャス」、英語で「ペトロル」ドイツ語は「ベンツィン」。どれも通じないみたいなので、ダメモトで私は妻の後ろから「ガソリーン」と叫んでみた。若者がニコッとして言った。

「オー、ガソリーノ!」

彼は、最寄りのガソリンスタンドへの行き方を、身振り手振りで教えてくれ、私たちは無事ガソリンを補給し、旅を続けることができたのであった。

 本日のメインイヴェントはラヴァダ見物と、トレッキングである。車の中には、軽登山用シューズが積んである。昼過ぎにそのラヴァダ観光のできる村に着く。村はずれの道に「ラヴァダ」と書いた小さな板の標識が立っている。私たちは車を停め、靴を履き替え、その標識の所へと行ってみた。道も何もない。溝があるだけである。

「おーい、何にもないぞ。」

私は妻に向かって叫んだ。ちょうど横にタクシーが停まったので、妻はタクシーの運転手に何かを尋ねている。そして、その溝がラヴァダだと言った。

 金沢の妻の実家の前にも溝があり、雪が積もったらそこへ捨てるのである。それと変わらない何の変哲もない幅一メートル弱の溝。しかし、その灌漑用の溝が、出入り多い海岸線の、等高線に沿って、何百キロにも渡って作られ、かつては使われていたということである。現在は、その溝の横の小道が、絶好のトレッキングコースとなっているという。

私たちはその溝に沿って歩き出した。このコース、何が良いかと言うと、起伏がないのである。水は上ったり下りたりしないので当たり前のことであるが。これは坂道だらけのマデイラの中では貴重である。しかし、先ほども書いたが、等高線に沿って作られているので、やたら曲がりくねっている。いくら等高線に沿って掘られていると言っても、時々は避けて通らなくてはならない障害物がある。道路とか、川とか。そんなときは、わずかな間地中に潜りながら、あるいは橋を架けながら、その溝は延々と続いていた。今では、浅く水が流れている場所もあるし、全く水のない場所もあった。私たちはラヴァダ沿いの小道を一時間ほど歩いたが、その間に三組の人々に会っただけであった。

 

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