マデイラン・ワインの味

 

 ショッピング・モールで買い物をしている最中に激しい雨が降った。その日の夜はまた近くの「鄙びた」レストランで夕食を取り、部屋に戻り、バタバタと明日の為の荷造りをし、夜十時には眠った。翌朝の飛行機は七時半。五時半にタクシーが迎えに来ることになっている。

 十月二十九日の早朝、タクシーで空港に向かう際に、激しい雨が降っていた。雨もこれくらい激しいと、飛行機が飛べなくなるので少し心配である。昨日のハイキングの途中、心臓が苦しくなってから、余り体調は良くない。寝不足もあるのだろう。

幸い、雨は小降りになり、飛行機は定時にマデイラを出発した。この飛行機、北ポルトガルの都市、ポルトで一度降りた後、アムステルダムへ向かうのであるが、私たちはポルトで、ロンドン行きの飛行機に乗り換えることになっている。ポルトで産するワインは有名、「ポルト・ワイン」(ポートワイン)と呼ばれ、甘いので食後酒として飲まれることが多いようである。

飛行機の中で少し眠ると、気分はかなり良くなった。ポルトで一時間待った後、ロンドン行きの飛行機に乗り換え、昼の十二時半にヒースロー空港に付いた。私は、眼の「虹彩」が登録してあるので、鏡に向かってウィンクするだけ、入国審査を十秒で通り抜けられた。しかし、列に並ばなければならない妻とポヨ子は三十分ほど経って、ようやく荷物を取る場所に現れた。同じ時間に、シリアのダマスカスからの便が着き、「英語を話さないベールを被った人たち」が大量に降り立ち、入国審査の列が遅々として進まなかったらしい。駐車場で車を取り家に戻る。真ん中の娘のミドリに会う。元気でいたようである。彼女が土産の中で一番喜んでくれたのは、スミレの買った服と、それとやっぱり「マルボロ」か。息子にお土産のマデイラン・ワインを渡すのは、彼がクリスマス休暇にロンドンに戻ってきたときになるであろう。

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このマデイラ旅行記は、旅行が終わってから、一ヶ月から二ヵ月後に書かれたもので、マデイラに居るときは、私はずっと別のエッセーを書いていた。落語に関するエッセーである。そのエッセーを読み返す毎に、私は、マデイラのホテルで波の音と、パソコンを使っている私の対面で宿題をしていたポヨ子を思い出す。

マデイラに居るときは、マデイラン・ワインを飲まなかった。濃くて甘酸っぱいワインなので、食事の時にはあまり余り適当ではない。ロンドンに戻ってから、夕食後、マデイラで買ったワインを、小さいヴェネチアグラスに入れて、チビチビとやりながら、この旅行記を書いてきた。普通のワインを新鮮な果物の味に喩えるならば、マデイラン・ワインは乾燥した果物の味、太陽の味というところか。いつしかワインも空になり、それからも私は旅行記を書き続け、クリスマス休暇中にようやく書き上げた。 (200612月)

 

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