ドイツ土産

 

 二月六日月曜日、午後七時前、私は六日ぶりに自宅に戻った。妻は既に帰宅していた。私は疲れ切っていて、家に入るなり、居間のソファに座り込んだ。ちび犬のコーディが膝の上にやってくる。私はコーディを撫ぜながらしばらく天井を眺めていた。

 

 人の気配で、廊下を見ると、背の高いお姉ちゃんが立っている。日曜日にロンドンへ着いて、職場体験のためにホームステイ中のドイツ娘、ユリア・ドヴォルシャークであった。前日に、妻は無事に独りでスタンステッド空港まで辿り着き、無事彼女をピックアップしたことは、妻からの電話で知っていた。彼女は、月曜日から、私たちの子供たちがかつて通っていた小学校で、先生のアシスタントをやるとのこと。

ユリアは数年前に見たときには、ポチャポチャした少女であったが、十八歳になった彼女は、見違えるほどきれいになっていた。

「モト、もう大丈夫なの。」

彼女はドイツ語で言った。ヘッセンの田舎訛りの、愛嬌のある声は、昔のままだった。大丈夫だと答えると、彼女は、自分の部屋に戻り、何かを取ってきた。

「これ、モトにお土産。」

彼女は私に細長い包みを二つくれた。

「開けていいかい。」

「うん。」

開けてみると、ひとつの包みにはヴァイツェンビール(南ドイツで好んで飲まれる小麦のビール)、もうひとつの包みにはそのビール専用のグラスが入っていた。私は、ユリアに礼を述べる。このビールが飲めるのは何時になるのかなと考えながら。

 ユリアとは十分ほど話した。

「イギリスの子供たちは悪戯者で困るだろう。」

と私が言うと、

「とっても素直で扱いやすいわ。」

と彼女は言った。本当かよと、思う。

 

 まだ八時前だったが、私は二階の寝室で休むことにした。病院では、爺さん婆さんの深夜バトルや、夜中に運び込まれた急患なので、熟睡できなかった。六日間入っていない風呂にも入りたかったが、それ以上に眠りたかった。

 二階で横になっていると、妻が、「おじや」を作って持ってきてくれた。私はそれを食った後、まだ九時前であったが眠った。

夢を見た。病院では、ドロドロとした意味のない夢ばかり見ていたが、久しぶりにまともなストーリーのある夢を見た。私は、京都に衣笠にある幼な馴染のイズミの家にいた。大きな家である。彼女はいなかったが、医師である彼女のお父さんがいた。お父さんが、僕にその家をくれると言った。ずいぶん都合の良い夢を見たものである。

 

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