自分のことは棚に上げて

 

 ドイツ人は一般的に自分の過失をすぐ他人に転嫁しようとする人たちである。かつて遅刻したドイツ人の部下に注意を与えたら、「目覚まし時計が壊れていて起きられなかった。悪いのは目覚まし時計で、自分ではない。」と反論されたこともあった。

 

 そのくらいなら可愛いものだが、先日新聞に載っていた記事を読んで、私は「そこまでやるか」と呆れてしまった。

 コカコーラとチョコレートを食べ過ぎて(飲みすぎて)太り、その挙句に糖尿病になった五十四歳のドイツ人男性が、コカコーラを相手取って、損害賠償の請求を起こしたというのである。訴えを起こしたその男性の職業は裁判所の裁判官というから二度呆れる。

 彼の論法によるならば、酒を飲みすぎて肝臓を患ったら、酒造業者の責任ということになる。私には、どう考えても本人の責任だと思うのだが。

 記事によると、彼はその前にもチョコレート会社を相手取って、健康被害に対する損害賠償の請求を起こし、敗れていた。そのときの判決によると、彼の訴えは「快楽、消費社会の典型」であり、彼の食習慣もさることながら、糖尿病を起こす原因には、遺伝、運動不足、ストレスなどもあり、チョコレート会社には責任はないということであった。

 至極まともな判決である。しかし、彼は懲りずに、自分の「自制心の欠如」と「怠惰」を棚に上げ、またまた裁判所の仕事を増やそうとしているのである。

 

 同じ日、これはロンドンでのやはり裁判のニュース。

 ある玉突きの有名選手が、二十一歳の女性から、ホテルの彼の部屋で強姦されたという訴えを起こされ、裁判が開かれた。その女性の証言が記事に載っていたが、彼女は自分が服を脱がされ、裸にされるとき、何も抵抗しなかった。しかし、彼がことに及ぼうとしたとき、同意しなかった。だから強姦だというのである。

 あなた、二十一歳にもなって男の前で服を脱いだら、次何が起こるのか、想像できるでしょう。普通の男性は、誘った若い女性が目の前で裸になったら、十人が十人とも相手がオッケーだと思いますよ。第一そこまで来たらもう生理的に止まらないでしょうが。

 ホテルの部屋までついて行き、そこで裸になった「軽率」さを棚に上げ、これも、ただでさえ忙しい裁判所の仕事を増やそうとしているとしか思えない。この場合、相手が有名人なので、慰謝料、和解金目当てだと考えられても仕方がないと思う。

 

 これらは氷山の一角で、もし、裁判所が、こんなつまらない「責任転嫁」の訴えでいっぱいだったとしたら、そのために本当に必要な審理が後回しになっているとすれば、腹立たしいことこのうえない。なんでもかんでも弁護士だ裁判所だというのは、困った風潮だと思う。