大学に入るということ

 

 アムステルダムから火曜日の夜に戻り、ロンドンには二日間いただけで、金曜日の早朝、僕はデュッセルドルフ行きの飛行機に乗った。かなり疲れが溜まってきた感じがするが、ドイツは昔の職場で、気心の知れた同僚との作業、車もあてがわれる、と良い事ばかり考えて、疲れを忘れようとする。

 実は、土曜日は九月から大学に通うことになった息子の入校の日なのだ。学長主催のパーティーには家族も招待されていて、本来なら妻とふたりで出席するところだが、僕は行けないので、妻と真ん中の娘、ミドリが出席することになっていた。

 木曜日の夕方、食事の際に、

「大学の入学レセプションにお父さんが来ないなんて嫌だわ。もし私の入学のときにダディがレセプションに来なかったら、私、親子の縁を切る。」

と末娘のスミレが脅しをかけてきた。小学校の入学式を、こちらでは家族や、親族で盛大にお祝いするが、大学の入学まで親が関与するものだとは思ってもみなかった。

 数週間前、今回の作業の準備のため、ドイツ・メンヒェングラードバッハを訪れたとき、元同僚で親友のデートレフは事務所にいない。休暇だと言う。その後、電話で彼と話したが、彼はベルリンにいたという。彼の弟さんの息子さん、つまり甥の小学校入学のお祝いのために。

「ええっ、親戚の子供の入学式に、わざわざ何百キロも車でいくの。」

と僕が驚くと、小学校入学は「アインシュールング」と言って、ドイツ人の家庭にとって、とても大事な出来事だと彼は言う。僕は冗談で、

「今度、システム切り替え作業に決まった土曜日、実は息子の大学の『アインシュールング』の日なんだけれど。」

と彼に言った。彼はそれを本気で受け止め、ちょっと焦った声で、

「それは大変だ。モトが終わってから来られるように時間をずらそうか。」

と言う。息子のためにスケジュールを変えていただくのは、余りにも申し訳ないので、大丈夫だとお断りしたが。

 金曜日に週末の作業内容の打ち合わせをして、土曜日の昼前に作業担当者五人がコンピュータールームに集合。データのバックアップを取った後、午後一時過ぎから、作業が始まった。息子と妻と真ん中の娘は無事ウォーイック大学に着いたかなと思う。

 休憩時間、一緒に作業をしているカロラ、クラウス、リートリン氏に聞いてみた。

「ドイツって、小学校に入るとき、盛大なお祝いをするでしょ。息子や娘が大学に入るときにも、やはり盛大に祝うの。」

「そんなの、聞いたことがないな。」

三人は異口同音に言った。

 それからまた僕たちは作業を始め、深夜に無事作業を終えた。

 

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