「ハリー・ポッターと死の秘宝」

Harry Potter and the Deathly Hallows

2007

 

<はじめに>

 

 シリーズもいよいよ最終作。正直、本は回を追う毎につまらなくなっていると思う。しかし、映画は五作目の「不死鳥の騎士団」を見たが、毎回作り方が上手くなり、楽しめるようになってきている。皮肉なものである。ともかく、娘が数章読んだ後、「つまらないからパパにあげる」とくれた本。「第六作まで読んだのであるから最後までやり遂げないと」と自分に鞭を打って、何とか最後まで読み終えた。三週間かかった。

 私にとって、これまで理解できなかった最大の疑問、それはスネイプ関する点である。「何故ダンブルドーはスネイプをあれほどまでに信頼していたのか」、その点が最後の最後に説明されていた。

 

 

<ストーリー>

 

 復活を果たし、日に日に力を増す「闇の支配者ヴォーデモート」と、その追随者であるスネイプ、マルフォイ一家等「デスイーター」たち。彼らはハリー・ポッターの抹殺計画を立てていた。彼らの力は既に魔法界の政府にも及び、政府の要職も、ほとんどは、ヴォーデモートの息のかかった人物が占めていた。彼らは、ハリーが現在の隠れ家から、別の場所に移るときを狙って、ハリーを捕捉することを計画する。

 一方ハリーは、叔父のダースリー一家のもとにいた。ヴォーデモートの勢力は、魔法界のみならず、徐々に人間界にも及び、地上では、事故、天災が多発していた。これまでハリーの理解者で、「オーダー・オブ・フェニックス」(不死鳥の騎士団)のリーダーであったダンブルドー校長の死後、ダンブルドーのことを悪く言う人物が現れ、ハリーはそれに我慢がならなかった。

ハリーは間もなく十七歳になろうとしていた。彼が十七歳になると同時に、これまで彼を守ってきた母の魔術が効力を失ってしまう。騎士団のメンバーは、彼とダースリー一家を、安全な場所に移すことを考えていた。最初は渋っていた叔父であるが、最後には、家を出て、騎士団の保護を受けることを承諾する。

ダースリー一家が出た後、今度はハリーが家を出ることになる。ヴォーデモートの監視が厳しく、容易には外に出られない。彼の脱出のために、駆けつけたのはハグリッド、ハーミオーニ、ロン、彼の兄弟など、計十三人。ハリーを含め、十四人がそれぞれふたりずつ七チームに別れ、ひとりが変身ポーションでハリーに化け、計七人のハリーが一斉に飛び出す。それによって、相手を撹乱しようという作戦である。しかし、家を出たとたんに、デスイーターの襲撃を受ける。ヴォーデモートも自ら出陣してくる。騎士団のメンバーはそれぞれ応戦する。

ハグリッドとハリーは何とか安全圏のトンクの両親の家にたどり着き、そこからポートキーを使って、ロンの家族、ウィズリー家の住むバローに着く。そこが、メンバーの集合場所になっていたのだ。戦いで負傷したメンバーたちが再び集まり始める。しかし、リーダーのマッドアイだけは帰らなかった。デスイーターとの戦いの死亡したものと思われた。メンバーたちは悲しみ、ハリーは自責の念にかられる。

その日から数日、ハリーはウィズリー家に滞在する。ハリー、ロン、ハーミオーニは、学校を辞め、ヴォーデモートの「魂」の宿るホルクラックスを破壊し、ヴォーデモートの息の根を止めるために、旅にでる決心をしていた。ハリーは、残りのふたりとその家族に迷惑をかけたくないためにひとりで出立しようと考えるが、ふたりの決心が固いことを知り、結局一緒に旅立つことに同意する。

おりしも、バローでは、数日後にロンの兄ビルとフランス人女性フルールの結婚式が行われることになっており、皆が準備に忙しかった。結婚式の前日はハリーの十七歳の誕生日。親しい友達が集い、宴が始まろうとするとき、魔法界政府首相のスクリムゴールが現れる。彼は、ハリー、ロン、ハーミオーニを呼び出し、亡くなったダンブルドー元校長の遺言を読み上げる。そして、三人に各々、ダンブルドーの遺言に書かれている物を手渡す。ロンにはデルミネーターという一切の明かりを消す道具。ハーミオーニには童話の本。ハリーには「クイディッチ」のボール「スニッチ」。そのスニッチは、ハリーが最初のクイディッチのゲームで、口でキャッチしたものであった。

数日後、ビルと、フルールの結婚式が行われる。ハリーも姿を変えるポリージュースを飲み、近所の少年に化けて参加をする。ハリーは、ロンの伯母のムリエルから、ダンブルドーには妹がいて、その妹が母親に幽閉された末に殺されたという噂を聞く。結婚式の途中、デスイーターが乱入する。ハリー、ロン、ハーミオーニの三人は混乱の中、バローを脱出する。

彼らは、ロンドンのトッテナムコートロードに着く。しかし、そこにもデスイーターの追手がかかる。ハリーの行動がヴォーデモート側に筒抜けになっていることに、三人は愕然とする。ハリーは敵の裏をかいて、自分が最も現れ易い場所、彼がシリウス・ブラックから引継ぎ、かつて「不死鳥の騎士団」の本部があった、グリモールド・プレースに行くことを思いつく。

三人はその家に隠れる。ハリーは、その家に仕えるエルフのクリーチャーから、シリウスの兄レグラス・アークタラス・ブラックが、自分のロケットをホルクラックスとしてヴォーデモートに提供し、それを洞窟の中に隠したこと。後に、レグラスは、ヴォーデモートに協力した自分の行いを悔い、ロケットを偽物とすり替えようと試み、その最中に命を落としたことを知る。その後、本物のロケットは、クリーチャーによりブラック家に持ち帰られ、マンダンガスによりブラック家から持ち去られていた。ハリーは、クリーチャーにマンダンガスを見つけて、連れて来るように命令する。連れて来られたマンダンガスはロケットをアンブリッジに渡したと白状する。

ハリーは「姿を隠すマント、インヴィジブル・クローク」を纏い、数週間に渡り、政府の建物の入り口を毎日偵察し、ロケットの奪回計画を練る。おりしも、政府では「純血主義」政策が徹底され、人間との混血の者は、ナチスのユダヤ人狩りにも似た境遇に陥っていた。ホグワース学校では、スネイプが、ダンブルドーの跡を継ぎ、校長になっていた。

ハリー、ロン、ハーミオーニは、ポリージュースを使い、政府の職員に化け、政府の建物に侵入する。そして、裁判所の「純潔裁判」に入り込み、アンブリッジを襲い、ロケットの奪取に成功する。しかし、逃げる際に、ロンは追っ手のひとりに腕を捕まれ、彼を引きずったまま空間移動をしたため、ロンは負傷し、隠れ家がグリモード・プレースのブラック家であることもばれてしまう。

三人は、毎日場所を変え、テントで逃亡生活を送る。彼らはゴブリンの会話を盗み聞き、ロンの妹、ジニーとその仲間が校長室にあるグリフィンダーの剣を盗もうとしたこと、しかしその剣は贋物で、本物はダンブルドーがどこかに隠していることを知る。ホルクラックスはグリフィンダーの剣でのみ、破壊することができる。苦労して手にやっとホルクラックスを手に入れたものの、それを壊す術もない。ましてや、残り四つのホルクラックスがどこにあるのかさえ分からない。それに食糧の調達にも事欠く逃亡生活。ロンはそんな状態に絶望し、去っていく。

ヴォーデモートと心の接点のあるハリーは、ヴォーデモートがグレゴロヴィッチという魔法の杖職人を探していることを知る。ヴォーデモートはグレゴロヴィッチを見つけたものの、彼の目指す物は数十年前にある若い青年が持ち去っていた。ハリーにはその青年の顔に見覚えがあった。しかし、それが誰であるかどうしても思い出せない。

ハリーとハーミオーニは、かつてダンブルドーの家族と、ハリーの家族が住んでいたゴドリック・ホロウに住む老婆、バティルダ・バグショットに会えば、何かきっかけがつかめるのではないかと期待する。彼らは村人に変装してその場所を訪れる。彼らは老婆に出会い、彼女の家に招き入れられる。しかし、ヴォーデモートの手はすでに回っており、ヴァティルダの中にはヴォーデモートが隠れていた。二人はヴォーデモートが形を変えた蛇に襲われるが、危うく難を逃れる。

ハリーはある夜、白い鹿がテントの前を通るのを見る。その鹿に付いていくと、凍った池の中にグリフィンダーの刀があるのが見えた。ハリーはそれを捕るために池に入る。しかし、首から提げたホルクラックスのロケットがまとわりつき、溺れかかる。それを助けた者があった。それは心を変えて帰ってきたロンであった。池の中から拾った剣を使い、ハリーとロンは、ホルクラックスのひとつを破壊する。

何とかまたひとつ破壊したものの、残りの四つのホルクラックスがどこにあるのが分からないまま、時は過ぎる。ハリーは、結婚式の際、ルナの父のクセノフィリアス・ラヴゴッドがつけていた紋章を思い出す。その紋章は、ダンブルドーの若い頃の友人、後年のライバルとなったグリンデルワルドのものであった。

彼は手がかりを求めてラヴゴッドを訪れる。ラヴゴッドは、ハリーたち三人に「死と出会った三人兄弟の話」をする。しかし、娘ルナを人質に取られていたラヴゴッドは彼らを、デスイーターに引き渡そうと画策する。デスイーターに囲まれた彼らであるが、またまた、ぎりぎりのところで脱出に成功する。

野営生活を続ける三人。ハリーには、ラヴゴッドが彼らに話した童話が、どうしても架空の話だとは思えない。死と出会った三人の兄弟の一番上は、誰と戦っても負けない「不敗の杖」を手に入れ、二番目は「死者を蘇らせる石」を手に入れ、三番目は「姿を隠すマント」を手に入れた。現に、一番下の弟が「死」から受け取った「姿を隠すマント」は現存し、ハリーの手にあるではないか。ハリーは、ホルクラックスを探すより、三人の兄弟の受け取った三つの品のうち、「不敗の杖」、「死者を蘇えらせる石」を所有することによって、ヴォーデモートに対抗できるのではないかと考える。

ハリーが不用意に「禁句」になっている「ヴォーデモート」という言葉を使ってしまったせいで、彼らは「スナッチャー」(混血の人種を捕まえる集団)に捕らえられてしまう。間もなく、三人の素性が割れ、彼らはマルフォイ一族の屋敷に連れて行かれる。そこにはハリーたちの同級生、ルナ、ディーン、杖職人のオリヴァンダー、ゴブリンのグリフォークなどが捕らえられ、地下牢に閉じ込められていた。

ベラトリックス・マルフォイは、ハリーの所有するグリフィンダーの剣を発見。それをどのようにして手に入れたかを知るために、ハーミオーニを拷問する。しかし、そのとき、元マルフォイ家の奴隷、今はハリーのおかげで自由の身になったエルフのドビーが現れ、囚われている者たちを脱出させる。しかし、ドビーはその際、ベラトリックスの投げた剣を胸に受け死亡する。

ビルとフルールの家にたどり着いたハリー達。ハリーはドビーの死を悼み、彼を手厚く葬る。彼は、杖職人のオリヴァンダーより、「不敗の杖」が、一度はグレゴロヴィッチの所有となったが、グリンデルワルドがそれを盗み、最後はダンブルドーが取り戻したことを知る。杖はダンブルドーと一緒に棺の中に収められていた。しかし、今や、ヴォーデモートはその在りかを知り、ホグワースを訪れ、それを手にしようとしていた。ハリーは三つの武器を手に入れることを諦め、引き続きホルクレックスを探すことにする。

ハリーは、本来グリゴッツ銀行の貸金庫にあるグリフィンダーの剣が発見されたときの、ベラトリックス・マルフォイの狼狽ぶりから、ホルクレックスのひとつをマルフォイ一族が管理しており、それがグリゴッツ銀行の貸金庫にあると推理する。彼は一緒に脱出したゴブリンのグリフォークと「もしグリゴッツ銀行の金庫に入れたら、グリフィンダーの剣を渡す」という契約をし、グリフォークの協力を得て、金庫破りの計画を練る。

ハーミオーニがベラトリックスに化けて、三人は、グリフォークを連れて銀行に侵入する。彼らは首尾よくホルクレックスの「レーヴェンクローの金杯」を手にするが、途中で正体を見破られる。追い詰められた彼らは、護衛用に繋いであったドラゴンを解放し、その背中に飛び乗り、かろうじて脱出に成功する。

グリゴッツ銀行が破られ、金杯が盗まれたことにより、ヴォーデモートはハリーたちが自分の命運を握るホルクレックスを狙っていることを知る。ヴォーデモートは、ホルクレックスの隠し場所を、順番にチェックに出かける。ヴォーデモートの心を読んだハリーは、最後の三つのホルクレックスのうち、少なくとも一つは、ホグワース学校にあることを知る。ハリー、ロン、ハーミオーニは、ホグワースへ通じる秘密の通路のあるホグミード村に向かう。

しかし、そこにもデスイーターたちが待ち構えていた。三人はある宿屋に逃げ込み、その宿屋の主人は三人を匿う。その宿屋の主人こそ、ダンブルドーの弟、アバーフォースであった。三人は彼の協力を得て、ホグワースに忍び込む。三人を待ち受けていたもの、それはかつての「ダンブルドー軍団」の仲間たちであった。彼らの呼びかけで、「不死鳥の騎士団」のメンバーも続々とホグワースに終結する。方や、ヴォーデモートもホグワースに向かっていた。ホグワースを舞台に、ヴェオーデモートとの最後の決戦の幕が、今まさに切り落とされようとしていた・・・・

 

 

<感想など>

 

少しネタバレになるが、まず、ホルクレックスについて整理をしてみたい。ヴォーデモートは自分の不死を実現するために、自分の魂を分割し、それぞれの物体に入れ込み、それを隠している。どれかひとつでも残ると、そこから彼の肉体の復活が可能なわけである。

@       日記(前作でハリーが破壊)

A       指輪(前作でダンブルドーが破壊)

B       ロケット

C       金杯

D       王冠

E      

F       ???

最後の一個が意外なのであるが、「最後は偶然作られたのだろう、どうして一個にカウントされるの」という疑問が湧いてくる。

 ホルクレックスの他に、今度は三つの「死の秘宝」が登場する。「死」が、彼と出会った三人の兄弟に与えたものである。最初は童話の形で登場するが、だんだんとそれが実話であり、三つの「秘宝」も現存するということが明らかになる。

@       不敗の杖

A       死者を蘇らせる石

B       姿を隠すマント

最後のマントは毎度お馴染み、ハリーの所有するものである。三つ目が現存するなら、あとのふたつも現存するに違いないというのがハリーの理屈である。しかし、最終作の、しかも後半になって、まだ新しい要素が出てきたのには恐れ入った。

 はっきり言って、六百ページにも及ぶ長大な本であるため、こうして、メモを残しておかないと、最初のことを忘れてしまうのである。

 

 しかし、主人公たちが窮地に陥り、ぎりぎりのところで何とか脱出するというパターン。これを二回や三回ならまだしも、七回も八回も繰り返されると、正直苛立ちが出てくる。そんなありきたりの手法でしか物語を盛り上げられないのか、そう思うと、少し寂しさを覚える。

 

 七作の間にハリーも少しは変わった。感情に流されなくなり、責任感が芽生えてきた。基本的にロン、ハーミオーニの人物設定も変わっていない。一番変わったのは、同級生のネヴィル・ロングボトムであろう。彼は最初、どうしようもないドジで臆病な少年だったのに、何と、今ではハリーのいないホグワースではハリーに代わるリーダーに成長している。

 

 このシリーズで、一番わけのわからない人物がスネイプであろう。一度は「不死鳥の騎士団」に入っていた。実際、彼は何度かハリーを窮地から救い出す。しかし、いつの間にか「デスイーター」に入り、ヴォーデモートの片腕になっている。ダンブルドー校長は、それに気が付いているのやらいないのやら、何となく煮え切らない態度を取り続ける。その挙句、ダンブルドーはスネイプに殺されてしまう。一体、この男何なの?という疑問。また、何故スネイプが、ハリーを目の敵にして、ネチネチと苛めるのかという疑問。これらが、最後の最後に明らかになるので、何となく、さっぱりした気分にはなる。

 

ハリーはこれまでダンブルドー校長を師と仰ぎ、全面的に信頼を寄せていた。しかし、今回は、人々のダンブルドーに対する風評を聞くとともに、ハリーのダンブルドーに対する信頼はぐらつきはじめる。

正直に言って、ダンブルドーも、言うべきことを全部伝えれば良いものを、いつもぼんやりした形でしかハリーにメッセージを送らない「変なおじいさん」という印象を強く持つ。もっとはっきりと言うことを言っておけば、ハリーがこれほどまでにウロウロしなくて済んだのに、そうしたら本が六百ページにならないで、三百ページ程度に済んだのにと、思ってしまう。

 しかし、「信頼」と言えば、ハリーが長期間行方不明になっても、自分の使命を明らかにしなくても、仲間たちの信頼は常に変わらない。ハリーがホルクラックスを探すために母校に侵入したとき、かつての「ダンブルドーの軍団」の仲間が彼を受け入れ、命を賭けて彼に協力する。そして、彼らの呼びかけで、ホグワースの教官たち、生徒たちも立ち上げる。この辺りは、非常に励まされるというか、元気づけられる展開である。

 

 ハリーとヴォードモートは敵同士でありながら、心の中がつながっている。第五作、「不死鳥の騎士団」では、ヴォーデモートがそのつながりを利用し、ハリーをおびき寄せる。しかし、今回は、ハリーがそのつながりを利用し、ヴォーデモートの行動をとその意図を知るのである。そして、何故、何時、何処でその「つながり」が出来たのか、それが最後に明らかになる。

 

 これだけ長いシリーズの最後なのであるから、結末はもう少し感動的に、涙を誘うように、盛り上げてほしかった。たいてい、長いシリーズの最終作を読み終えると「もうこの後はないのだ」という一抹の寂しさを覚える。しかし、今回は、もうこれで読まなくてもいいという安心感を覚えた。映画は後二作あるが、封切りになれば、やはり見に行くと思う。

 

20079月)

 

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