イリアとエレーネ

 

屋根の青い色が、空の青い色に溶け込んで、区別ができないくらい。

 

 海岸沿いに一キロほど歩く。レストランやカフェがあるが、ほとんど客はいない。もう閉めてしまっているレストランもある。

ペリッサの街の中心に教会があった。丸い屋根が青く塗られている。屋根の青さがあくまで青い空に溶け込んでしまい、境目が見つけられないくらい。レプのアンディによると、サントリーニ島は小さな島だが、四百四十もの教会があるという。バスから見る限り、殆どの教会が白い建物に青い屋根。ギリシアの国旗と同じコンビネーションである。

 帰り道、今晩夕食を食べるレストランを物色しながら歩く。一軒のレストランで店の表に表示してあるメニューを覗き込んでいると、赤い上下を来た、金髪の小柄なお姉さんが出てきて、英語で熱心にメニューの説明をしてくれる。化粧の濃いお姉さんだが、何となく好感が持てる。

「今まだそれほど腹が減ってないんで、一回りしてから後で寄らせてもらうわ。」

そう言って立ち去る。メニューだけ見て止めるときの決まり文句。

 ペリヴォロスの村に一軒だけある店でビールや水、野菜を買って、アパートに戻る。皆が夕食にでかける時間らしく、アパートの住人とすれ違う。あるカップルが、僕らの持っている買い物袋を見て、

「あそこの店は高いから、ちょっと歩いて、ペリッサのスーパーへ行ったほうがいいよ。」

と助言してくれる。こういう情報は有難い。実際先ほど買い物をした店は高かった。

 皆夕食に出かけたので誰もいなくなったアパートのプールサイドで、マユミとふたり、買ってきた缶ビールを飲む。旅行会社の観光案内ファイルが置いてあったのでそれをめくりながら。色々と行ってみたい場所はあるが、とりあえず、明日、レプのアンディによる説明会があるので、それを聞いてから、身の振り方を決めることにする。

 七時半にまた海岸に出て、先ほどのお姉さんの店に入る。

「約束どおりまた来たよ。」

と言うと、彼女は

「ウェルカムバック。」

と言った。このお姉さん、イレーネという名前なのだが、やたら明るい人で、店に流れる音楽に合わせて歌いながら給仕をしている。時々は踊っている。そのちょっとハスキーな声が誰かに似ている。そうだ「日曜はダメよ」の主人公だ。

 クレタ島から帰ってから、「ギリシアとエーゲ海に取り憑かれた」僕は、研究も兼ねて四本のギリシア関係の映画をDVDで見た。「日曜日はダメよ」、「クレタの風車」、「マンマ・ミーア」そして「その男ゾルバ」である。「日曜はダメよ」は一九六〇年公開という古い映画。ギリシアの港町ピレウスが舞台になっている。その女主人公の売春婦、イリアの奔放なキャラクターが実に印象的であった。このお姉さん、イレーネを見ていて、そのイリアを思い出した。

 

「日曜はダメよ」でイリアを演じるメリナ・メルクーリ。

 

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