聖職者の昼食

 

店の奥、左端では司祭さんがビールを飲んでいる。

 

岩山を降りていくと、眼下に今日行くはずだったアンシャント・ティラの遺跡と、カマリから登ってくるジグザグの道が見えた。道はジグザクというよりももっと曲がりくねっており、パイの皮を折り畳んで、それを包丁で切った切り口を横から見ているよう。マユミがリュックからプラムを出し、「半分ずつ」食べようという。彼女が食べた後、残りを食べようとする、種の周りにどう見ても三分の一ほどしか実が残っていなかった。

ピルゴスから歩き始めて二時間、アンシャント・ティラの入り口に到着。後ろに聳える山を見ると、随分高いところまで登ったものだと感心する。遠くから見ると、山にはほとんど草木が生えていないように見えるが、アザミその他の低い植物が岩の間に生えている。

そこからは道が、自動車の通れるカマリへの道と、人だけが歩けるペリッサへの道に分かれている。僕たちはペリッサへの道を降りる。途中見上げるような、高さ二百メートルはあろうと思われる絶壁が左手に見えた。その崖の窪みに、白い教会が立っているのを見つける。どうして資材をあそこまで上げたのか見当もつかない。

歩き始めてから二時間四十五分後、ちょうど正午にペリッサの海岸に着く。ここから僕たちの住むペリヴォロスの村まだはもう歩いて二十分くらいの距離ではあるが、ここで休憩して昼食を取っていくことにした。

歩き始めた頃は雲が多く涼しかったが、正午に近づくにつれ気温が上がり、下り坂とはいえ、歩くとかなり汗をかいた。まず、水着に着替え海に入り身体を冷やす。ペリッサの海岸は結構遠浅で、岩山の下でも、海底を砂が覆っており、急に深くはなっていなかった。

カマリとペリッサを結ぶ「水上タクシー」がお客を運んでいる。船着場がないので、乗客は靴を脱いで、砂浜から水の中にジャブジャブと入っていき、梯子を使ってボートに乗り込んでいる。

昼食にパンを食べ、少し泳いだ後で、海岸に面して立てられたカフェのひとつに入り、ビールを頼む。ビールは日本でいう「大ジョッキ」で出てきた。ジョッキは冷凍庫でキンキンに冷やされていたと見え、水滴が凍りついている。三時間歩き続けた後なので、ビールはどんどん身体に吸収されていく。運動の後のビールはやはり最高だ。

しばらくして、カフェに、ギリシア正教会の聖職者が入ってきた。司祭さんというのだろうか、長い顎鬚を蓄え、深い紫色の足首まであるローブを着ている。店のウェイターも最大限の敬意でもって彼を迎えている。席に着いた彼が、何を注文するのか興味津々。司祭さんはビールとギリシア風サラダを注文した。なるほど、聖職者でもやっぱり暑い日にはビールを飲むのである。

カフェの真下が砂浜なのだが、そこにトップレスのお姉さんがいた。密かにカメラのレンズを望遠に代え、海を撮影しているようなふりで、お姉さんをパチリ。

ビールを飲んだ後、海岸沿いをペリヴォロスに向かって歩く、午後三時、一番暑い時刻。マユミは時々海に入って身体を冷やしている。

 

エーゲ海名物トップレスのお姉さん。

 

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