二度目の結婚式

 

 ドイツに住む友人のカップル、ウルリケとベルントの結婚式に招待された。ウルリケは再婚。最初の夫の間に九歳になる男の子がいる。彼らは結婚に先立って、自分たちの子供を設けており、その子も一歳半になっている。

 再婚の場合、もはや教会で式を挙げることはできない。神の前で「死がふたりを分かつまで」と誓った以上、教会には足を向けられないということであろう。今回の結婚式も町の戸籍局(シュタンデスアムト)で行われ、招待状には、土曜日の朝十時半までに、彼らの住むライン河畔の町の市庁舎の玄関に集合せよと書いてあった。

デュッセルドルフで飛行機を降りる。あいにくの雨。レンタカーでその町へ向かう。戸籍局の玄関で新郎のベルントに会い、「おめでとう」と言って握手を求める。友人のカロラが「だめだめ、まだ早い。おめでとうは式が済んでから。」と言う。なるほど、まだ正式には結婚していないのだから。新婦のウルリケがブーケを持って横に立っている。白ではなく、赤いドレスを着ている。これも二度目だからだろうか。

時間になり一室に通される。五メートル四方程度の飾り気のない部屋で、一角に机があり、その前に新郎新婦と証人が座る椅子が四つ。その後方に家族、友人のための椅子が二十ほど並んでいる。

黒いスーツを着た四十歳くらいの短髪の女性が笑顔で現れ、前の机の新郎新婦の向かい側に座る。隣のカロラに、「あの人誰だい」と尋ねると「シュタンデスアムトベアルバイタリン」だと彼女は言った。直訳すると「戸籍局女役人」となる。

その「女役人」がてきぱきと話を進める。まず身元の確認。「あなたは、何月何日、どこそこ州のどこそこ市生まれ、現住所どこそこ市、何とか通り何丁目在住のウルリケ・フィオリさんですね。」と新婦に尋ねる。同じ質問が新郎にも。何か裁判の尋問の始まりのようである。ふたりの身元が明らかになると、「あなたがたは本年四月二十六日に結婚申請を提出しましたね。今もその気持ちに変わりがありませんか。」と彼女は聞く。その後ちょっとニコリとして「これからの私の質問で、『ナイン(いいえ)』と答えるのはこの質問だけですよ。」と付け加えた。これに新郎新婦はもちろん「ナイン」と答える。

その後、婚姻届にふたりがサインをし、証人の友人たちがサインをして、それでお終い。十分とかからなかった。部屋から外に出るとき、家族や友人が改めて二人を祝福する。「ご結婚おめでとう」はこのタイミングで言うべきものであったのだ。

部屋を出るとき、カロラに「四月に結婚申請を出して、正式に結婚する今日はもう八月だよ。どうしてこんなに時間がかかるんだい。」と聞いてみる。「結婚申請したあと、正式に結婚するまでは最低六週間待たなければならないのよ。その間、ふたりが結婚申請を出した旨が、戸籍局の外の掲示板に張り出されるの。一種の習慣ね。昔は、その間に誰かがそれを見て『あの人は重婚だ』なんて事実がたまに見つかったのでしょうね。でも今は六週間たってもまだふたりが結婚する気かどうか再確認するため、つまり本人たちのためにあるようなものだわ。」彼女は何故かため息混じりにそう言った。