スキーへ行くって?

 

アルプスの山に囲まれたサウゼ・ドゥルクスの村

 

 十一月頃、妻が、「スキーに行くから、十二月の下旬に休みを取ってよ。」と言った。「スキーか、何だか面倒臭いな。」と言うのが正直な気持ち。どちらかと言うと、暖かい南の島へ行って、海岸で読書三昧、カメハメハ大王的生活の方が、私の性には合っている。それに、スキーなんて家族五人で行くと馬鹿高いだろうに。でも、子供たちのためには、たまにはスキーも良かろうと思い、私はオーケーした。しばらくして、妻は近所の旅行代理店で、クリスマスの週に、イタリアへのスキーツアーを予約してきた。妻が万事取り仕切ってくれているので、私は彼女に任せ切り、出発の数日前まで、行く場所さえ知らなかった。

 出発の数日前、真ん中の娘が病気で参加できなくなり、妻も家に残ることになった。と言うことは、私が十六歳の長男と十三歳の末娘を引き連れていくということ。話しが違うやんけ。慌てて旅行の日程を読み直して、そのとき初めて飛行機がロンドン南方のギャトウィック空港から、トリノに飛ぶことを知ったのだった。

 飛行機が朝六時半出発、しかも空港まで一時間半かかると言うことで、当日は朝三時半の起床。風邪気味で頭痛と寒気がする。四時に迎え来たキャブで、私たち三人はでかいトランク三つとともに、空港へ向かった。五時半に空港に着いたときさえ、朝の気配すらなく、夜がまだ完全に辺りを支配している。

 クリスマス休みが始まった最初の日曜日。空港は、英国を脱出して、ホリデーに出かける観光客でごったがえしていた。それでも、私たちは三十分ほどで無事チェックインを終え、無事にブリタニア航空のチャーター便に乗り込み、定時にロンドンを出発、トリノへと向かった。最初から何となく気乗りのしない旅行であるが、飛行機の窓から、真っ白な雪を頂いたアルプスの山々が見えてきたとき、少し「やる気」が出てきた。

 トリノ空港は、ギャトウィック空港以上にごった返していた。日本の地方空港、例えば小松空港なんかよりもまだ一段と狭い空港に、英国からだけでも、お客を二百五十人近く乗せたチャーター便が六便も七便も着陸するのである。入国審査、荷物の受け取り場所はまさに溢れかえる人間で「カオス」と言っていい状態。

 入国審査で待つこと三十分、私と子供たちは、荷物の受け取り場所で、辛抱強く荷物の出てくるのを待った。三十分ほどで、一個のトランクが出てきた。さらに二十分後に息子の荷物の入ったトランクが出てきた。その後、待つこと一時間、遂に最後の一個は現れず。仕方なく、私は荷物のカウンターに向かい、更ににそこで二十分くらい列について、紛失の届けを出した。「見つかり次第ホテルへ届けてね」と頼んで、やっとのことで外にでる。

 外に出たときは、飛行機が着いてから既に三時間近く経っていた。バスは待っていてくれた。バスに乗り込んだとき、また完全にやる気が失せていた。「なくなったトランクに入っているのは普通の着替えで、スキー用品は届いたトランクに入っていると思う」と言う娘の記憶が、せめてもの慰めであった。もし逆だったらと思うと、更に気が重くなる。ともかく、昼過ぎに私たちはアルプスのスキーリゾート、「サウゼ・ドゥルクス」に着いた。