体重を乗せきれないお父さん

 

これが正しいスキーの持ち方

 

 毎朝、リフト乗り場まで、ヨイショコラショとスキーを担いで上がるとき思う。どうしてスキーとスキー靴ってこんなに重いものなんだろうと。小学生の頃、学校からスキーへ行っても、スキーを担いで上がるのが重くて面倒で、それだけでスキーを好きになれなかった。あれから四十年。世の中には軽い材質がどんどん登場し、全てが軽量になっているのに、スキーとスキー靴の重さは、全然昔と変わらないような気がする。それとも、スキーを上手に滑るためには、ある程度の重さが必要なのだろうか。

 ホテルの客の中には、ホテルでスキー靴を履いて、それで町を横切り、ゲレンデまで歩いていく人もいた。あれはちょっと真似できない。スキー靴を履いただけで、もう自分が「機動戦士ガンダム」になったみたい。重いし、足首が固定されているので、スムーズに歩けない。それで、私はいつも運動靴を履いてリフト乗り場まで行き、そこでスキー靴に履き替えていた。運動靴は、傍の樅の木の根元に隠しておくのである。スキーが終わってからは、その樅の木の根元から運動靴をゴソゴソと引っ張り出すのが、日課になった。

 最初は、末娘と自分のスキーを二セット、肩に担いで運んでいたのだが、ある朝、一緒のホテルに泊まっているお兄ちゃんから、便利で楽なスキー運搬方法を学んだ。スキーの板を合わせて、一本のストックの紐を板にくぐらせる。もう一本のストックの紐を上下逆に板にくぐらせる。ストックを揃えると、ストックがハンドバックの「握り手」みたいになり、スキーとストックを一度にひょいと片手で持ち上げられるのである。これは便利。これなら、おちびの末娘も自分でスキーが運べる。そして、靴は両側を紐で縛り、「格さん助さんの振り分け荷物」風に肩から前後に掛ける。これでスキーの運搬は随分楽になった。

 しかし、スキーと言うのは、下手だからかもしれないが、(おそらくそうなのだが)、やたら疲れるスポーツである。普段からマラソンをして鍛えている私でも、最初の二、三日は太股、お尻、膝が痛くなった。別に一日中滑っているわけではない。午前中は十時から三時間ほどスキー学校で皆と一緒に滑る。昼食の後、一時間くらい娘や息子と一緒に軽く滑り、午後三時ごろには、もう、リフトに乗ってホテルに向かっている。それでも、疲れるのである。しかし、日が経つにつれ、力を抜くことを覚えだしたのか、それ以上、筋肉痛はひどくならず、最後の日まで無事滑れた。

 スキーを揃えたまま、クルッとカーブしようと思うと、身体を一瞬思い切って谷側に投げ出さなくてはいけない。理論では分かっているのであるが、これを急斜面でやるのは、なかなか難しい。家族五人の運命が自分の肩にかかっていると思うと、お父さんは思い切って体重を谷側にかけられない。つまり、体重が後ろに残ったまま曲がろうとする。スキーが揃わずバタバタになる。転ぶ。小さな子供たちなんか、ロクにストックも使わないで、スイスイとジグザグに滑っていく。スキーと言うのは、あまり自分にかかる責任の少ないときに学ばねば、上達しないような気がする。