真夜中の太陽は見えたか

 

 午後十時過ぎのヴェステロス発の飛行機に乗るため、僕らは七時に中央駅のバスターミナルに行った。「真夜中の太陽を見る」と言う目的を、僕は前夜早く眠ってしまって果たしていない。マユミとミドリは昨日、夜十一時に夕焼けを見たのに。

「今日は帰りの飛行機が遅いから、空港で真夜中の太陽が見えるかもしれないわよ。」

とマユミが言った。なかなか期待を持たせる言葉だ。しかし、その日は朝から、時々小雨の降る曇り空で、太陽は一度も顔を出していなかった。

 バスは今回遅れもなく、定時の七時半にストックホルムを離れた。考えてみると、ストックホルムの町は、本当に「クリーン」な印象を僕に与えた。日本の街はゴミや落書きがなく清潔だが、都市計画がルーズで雑然としていて広告類も目障りだ。ロンドンでは都市計画はしっかりしているが、通りはゴミだらけで建物自体も薄汚れている。ドイツやオランダの町々は清潔だが、建物がどちらかと言うと重厚な感じがする。その点、ストックホルムの街は、全てにスッキリしていた。街が「水」と一体となっていて、その面でも良かった。今後、僕の好きな街のひとつになると思う。一番良い季節に訪れたから、良い印象を持ったのかも知れないが。スウェーデンには金髪の人が多いと聞いていた。確かに、きれいな金髪の人が目に付いた。しかし、女性の美しさから言うと、僕はポーランドとデンマークに軍配を挙げるだろう。

バスが高速道路を西に向かって走る間に、雲が切れ始めた。午後八時と言うのに、顔を出した太陽はまだまだ高いところで、昼の輝きを保っている。陽光を反射する草原が眩しい。九時前にバスは飛行場に到着。出発までまだ一時間以上あるので、三人で空港の外のベンチ座る。見上げる空は、果てしなく青かった。

アナウンスに促されて、チェックインを済ませ、空港の待合室に入る。残りの金を計算して、ビールと水と英国の新聞を買う。これで、クローネはきれいさっぱり使い切ってしまった。

出発予定時刻になっても、ロンドンからの飛行機は来ない。新聞を読んでいるミドリが、時々顔を上げて

「まだ来ないの?」

と聞く。夕方の便は、朝からの遅れが蓄積されており、なかなか時刻通りには来ないものだと彼女に答える。今のところ、この空港には一台の飛行機もいないのだ。

しばらくして一機到着したが、それは「SAS」の飛行機だった。十時半頃になって、少し薄暗くなった空にポツンと明かりが見えた。どうやら、僕たちの乗る飛行機らしい。明かりはだんだんと大きくなり、ライアン航空のボーイング七三七が滑走路に滑り込んできた。

飛行機は十一時過ぎにロンドンへ向けて出発した。さすがに辺りは暗くなってきた。飛行機は飛び立って、南西に向かう。時間は十一時半。僕は窓から北西の空を見た。そこはオレンジ色の夕焼けだった。まだ完全に零時ではないが、まあ良いではないか。僕は「真夜中の太陽」を見たのだ。

そんなことを思っているうちに、たまらなく眠くなり、僕は眠ってしまった。(了)

 

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