舞台も花のヴェロナにて

 

円形競技場から架かる流れ星のオブジェ。

 

 さすがに三日間ヴェネチアを観光して、ちょっと飽きてきたので、四日目は別の場所に行くことにした。選ばれた場所は「ロミオとジュリエット」の舞台となったヴェロナである。僕は実に二十七年前、一度ヴェロナを訪れている。

メストレからヴェロナまでは約百二十キロの行程。四日目の朝、僕はまだ皆が寝ている間にメストレの駅前に行き、レンタカー屋で銀色のオペル・コルサを借りてきた。リッターカーで、五人で乗るにはちょっと狭いが、どうせ一時間程度のドライブなのだから、後ろの席の三人は我慢できるだろう。

右側運転は出張先のドイツやオランダでいつもやっているので問題ないのだが、前日ちょっとしたハプニングがあり、運転には少し不安があった。眼鏡が壊れたのだ。通い慣れた道を走るなら全然問題ないが、知らない道を標識だけを頼りに走るとき、眼鏡なしでは不安。息子や、妻に、標識を早めに読んで知らせるように言っておいたが、走り出すと案の定、乗ってしまえばあなた任せ。妻も子供たちは、早速話に夢中になるか居眠り。前途は暗い。

パドヴァ、ヴィチェンツァなど、ブルネッティの小説によく出てくる町を通り過ぎ、一時間後にヴェロナという標識で高速道路を降りた。半時間くらい駐車場を探して街中を彷徨いながらも、最後には円形競技場の近くの立体駐車場に車を停めることが出来た。

最初に訪れたのはアレーナと呼ばれる円形競技場。ローマのコロッセオも有名だが、完全な形で残っていると言う点では、ヴェロナのアレーナに軍配が上がると思う。ピンクの石で作られたスタンドが、ちょうど二千年たった今でもまだ完璧な形を留めている。スタジアムのキャパシティーを一万二千人くらいと想像したが、実際は二万人が収容できたと言う。競技場の最上段から、丘や尖塔が見え、遥か向こうに雪を頂いたアルプスの山が見える。二人の娘は、円形競技場には余り興味がないらしく、スタンドの石段に座って、ずっと本を読んでいる。アレーナから、横の広場に白い流れ星のオブジェが作られている。流れ星がアレーナから弧を描いて飛び出し、広場に落ちて輝いているという趣向らしい。夜になりライトアップされたら、結構素敵だろうなと思う。

アレーナから、ヴェロナの街を歩いてみる。古代の城壁に囲まれた市街は、縦横隈なく歩いても二時間もかからない。そういう意味では飛騨高山程度にコンパクトで、歩いて観光するには都合のよい街である。街中の建物のバランスが取れているというのが印象。しかし、この町の見所は橋だと思った。街を流れる川に架かる石造りの橋は非常に趣がある。昔来たときも、一生懸命橋をスケッチした覚えがある。子供たちもこの街を気に入っているようだった。

最後に「ジュリエットの家」と言うのを訪れてみたが、これは最悪。家の壁に、チューインガムなどで無数の紙が貼り付けられていた。そして、その狭い中庭に突然日本人の団体が大挙して登場。僕は表通りに避難し、皆が出てくるのを待っていた。

 

2000年の歴史を感じさせる円形競技場の内部。

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