女が男で男が女

男に扮したロザリンドとお嬢さんスタイルのままのシリア。グローブ座HPより。

 

 さて、森の中へ逃げたロザリンドであるが、追っ手の目をくらますために、男の格好をする。(何故か、一緒に逃げたシリアは「お嬢さんスタイル」のままである。)

 ロザリンドは皮の上着を着て皮のズボンを履き、髪の毛を短くしている。(短いのが女優さんの地毛で、前の幕では付け毛をしていたのである。)ロザリンドを演じるのは、ナオミ・フレデリックというなかなか可憐な女優さん。三十歳を超えているとはとても見えない。みずみずしい。彼女が男の格好をして、男っぽい口を利き、男っぽく振舞っている様子が、とても可愛い。基本的に、僕は男の子の真似をしている女の子を見て微笑ましく思う。

 何十年も前、大森宣彦監督の映画で、男の子と女の子の心と身体が入れ替わってしまう「転校生」という映画を見た。そのとき、「女の子の身体の中に入ってしまった男の子」を演じる女の子、小林聡美だったか、彼女の所作がとても可愛かったのを思い出す。

 シェークスピアの時代、事態はもっと複雑であった。当時女性が舞台に上がることは禁じられており、日本の歌舞伎のように、男性が女性の役を演じていたのである。したがって、この場合、男性が女性の役を演じ、その男性の演ずる女性が男性に身をやつすわけ。考えただけで演技力を要求されるシチュエーションである。しかし、当時はおそらくその「変なシチュエーション」でも笑いを取ったのではないかと思う。吉本新喜劇で、桑原和男氏さんが、垂れたおっぱいをぶら下げた婆さん役をやって、笑いを取っているように。

 この芝居、影の主人公と言ってもいいくらい、全体の半分くらい笑いをひとりで引き受けているのが、道化のタッチストーンである。最初宮廷では、トランプのジョーカーみたいな道化師の格好で出ているが、森の中でロザリンドに付き従うになってからは、普通の格好になっている。最初「まともな」格好で出てきたときは、誰か分からなくて、

「この人だれやろう。」

と思ってしまった。

 この道化師、なかなかハンサムなのである。最近では「マンマ・ミーア」の映画に出ていた、古くは「ブリジット・ジョーンズ」にも出ていた英国の俳優、コリン・ファースに良く似た雰囲気と顔立ちの男優である。この人が真面目な顔をして面白いことをやる。それで笑ってしまう。「面白そうな顔をして」面白いことをやるのと、「真面目な顔をして」面白いことをやるのでは、どちらが面白いか。僕は絶対後者だと思う。

 道化師タッチストーンは、いつも自分の人形を持っており、時々それを相手にヌーと差し出し、相手を驚かせる。彼が「まともな格好」になったとき、その人形までが、「まともな格好」になっていたので、場内爆笑の渦であった。

 森の中で、ロザリンドとオーランドは再会する。ロザリンドはオーランドであることが分かるが、オーランドは男の格好をしているため、相手がロザリンドであることが分からない。現実には絶対有りえない状況なのであるが。しかし、これは「喜劇」なのである。どんなシチュエーションでも許される。面白ければ。

 

道化師を演ずる、ドミニク・ローワン。コリン・ファースに面影が似ている。いつも人形を持っている。グローブ座HPより。

 

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