ウサギ美味しいかの山

 

串刺し焼肉、スブラキを前にしたワタル。

 

六月二十八日、日曜日。五時四十五分に目が覚める。休暇なのだし、もう少し眠りたいが、どうも眠れない。こちらに来てから眠りが浅い。いつでもどこでも眠れるワタルが羨ましい。プールへ行き、プールサイドでスクワットと腕立て伏せをやり、その後十七メートル半のプールを十往復する。朝は気温が二十度を少し越えたくらいか。涼しい。プールの水が暖かく感じられる。ひと泳ぎした後、部屋に戻り、パソコンをつけ、旅行記、つまりこの文章を書き始める。

昨夜はカリヴェスのレストランで夕食をとった。僕はウサギの肉を注文した。肉屋にぶら下がっている皮を剥がれたウサギさんを見て、一度食べてみたいと思っていた。ウサギの肉は小さく切られて、ハーブをまぶし、たっぷりとしたオリーブ油で焼かれていた。食べてみると、クセがなく、鶏の唐揚を食べているような雰囲気だ。ウサギはドイツで何度か食べたことがあるが、本来油気の少ない、ちょっとパサパサした肉。これくらいたっぷりと油が使われていてちょうど良いくらい。

「ウサギ美味しいかの山〜」

京都で、友人のサクラが、彼女の父上であるH先生の講演会へ連れて行ってくれた。講演の途中で突然H先生が「ふるさと」を歌いはじめ、奥さんが手話で歌詞を訳しておられたのを思い出す。

車を借りられるのも今日が最後。子供たちが起きてくるのを待って、車でペレオハラという南海岸の町に向かう。僕たちの滞在するカリヴェスや、西部で最大の町ハニアは北海岸にあるので、南海岸へ行くためには、クレタ島の背骨である高い山々を越えて行かねばならない。南海岸の村や町は、断崖絶壁が海まで迫っているせいか、それらを横につなぐ道路がない。山を越えて北側から入るか、フェリーで海から入るしかないのだ。

その日も、ハニアへ向かう高速道路の途中から山へ向かう道に入る。一時間ほどでペレオハラの町に着く。岬に面した町で、岬の東側は岩浜、西側は砂浜、両側とも海水浴場になっている。車を停め、岬に向かって歩いていくと、岬の先端は漁港になっていた。漁港に面したカフェでは、仕事を終えた漁師のおっちゃんたちがビールを飲んでいた。皆よく日に焼けている。

ヴェネチア植民地時代に作られ、崩れかけた城壁に沿って街へ戻る途中、幅十メートルくらいの岩場に囲まれたビーチを発見。こじんまりした可愛いビーチだ。気に入ったので、そこで昼食にすることにする。そこにいるのは全部で十人くらい。ほぼプライベートビーチ。握り飯で昼食。ドライブに出る日は、いつも朝に飯を炊き、握り飯を作って持ってきている。エーゲ海を眺めながら、握り飯をほおばり、タクワンを齧るのも悪くはない。

海に入ってみる。水は身体が一瞬引き締まるほど冷たい。岩浜は砂浜に比べて水温が低いようだ。冷たい水の中で二回ほど泳ぎ、その後、太陽の下でデッキチェアーに横になる。気持ちが良くなり、少しウトウトした。

 

ペレオハラで見つけたBMWのサイドカー。

 

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