アリの行列

 

ギリシアの国旗がはためく船に乗る。

 

七月六日。九時間以上眠り、七時に目が覚める。クレタ島に来てから一番よく眠れた。不整脈も治まっている。

今日は最後にまた遠出、二度目の船旅だ。観光船でグラムヴォウサ半島の「岬めぐり」をする予定。ワタルが部屋に置いてある旅行案内書で見つけ、旅行会社のフィルに聞いてみて、「良さげ」な所なので、最後の一日を使って行ってみようというわけだ。八時半に子供たちを起こし、八時四十五分に車でアパートを出発する。

カリヴェスから高速道路を西に走ると、四十五分ほどで高速は終わりになる。そこがキサモスという町。その町を通り越したところに港があり、そこから観光船が出ている。観光船は、ヴェネチア時代の城の廃墟のある島と、半島の先にあるラグーンに立ち寄り、夕方にまたキサモスに帰って来る。

港に着いたのがギリギリで、船も混んでいたが、幸い十時十五分発の船に乗ることが出来た。そんなに大きな船ではないが、三百人くらいは乗れるだろうか、中にはバーや食堂もある。操舵室の前のデッキでは、早くも水着に着替えた若者たちが日光浴をしている。僕たち家族は、最後尾のギリシアの国旗のすぐ下に席を取る。

船は出発。半島に沿って進む。この辺りはクレタ島でも陸の隆起が激しい場所とのこと。波が岩に打ち寄せる数メートル上に、かつての水面であった線が見える。半島は切り立った崖でできており、海から直接数百メートルの高さの山が聳えている。所々に草は見えるが、木は生えていない。山の頂には雲がかかっている。今日は水蒸気が多いのか、遠くの山や半島が霞んで見える。空の雲もいつもよりは多いようだ。

船は岬の先のヴェネチア時代の城のある島、アギア・グラムヴォウサへ向かう。島の片側はほぼ垂直の崖になっており、その崖の上に城壁が見える。崖の高さは百メートル以上あるだろう。

島に近づくと、座礁して、朽ち果てた船の残骸が見えた。真っ赤に錆びている。僕は、ガダルカナル島で見た、同じく座礁して朽ち果てた旧日本軍の船を思い出した。

船は小さな桟橋に着き、降り立った人々は、崖に作られた細くて急な道を一列になって城へ向かう。数日前、湖の畔で弁当を食べたとき、小さなアリが、自分の身体の何倍もあるポテトチップスのかけらをヨイショ、ヨイショと運んでいるのを見て、感心したことがあった。下から見ると、城へ登る人々に列は、そのとき見たアリの行列のようだ。海は例のエメラルドグリーン。何度も何度も書くが、「素晴らしい」の一言。

マユミと子供たちは先に海で泳ぐという。心臓に自信のない僕は、少し休憩した後、先に登り始めることにする。水中にいる三人に手で合図を送る。

「先に・ゆっくり・上へ・行ってる」

通じたらしく、マユミが水の中からOKサインを出している。自分もアリの一匹となって、城へ向かう坂をエッチラオッチラ登りだす。

 

アリの行列のように城から降りてくる。

 

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