市場は楽し

 

市場でウサギを眺める少女。美味しそう?可哀想?

 

 考古学博物館を出てから、すぐ横のナイル河の畔に出た。そこで河をバックに何枚か写真を撮る。数千年前、ナイル河が春先に定期的に起こす洪水によって、肥沃な土がナイルデルタに運ばれ、そこからの収穫によって文明の基礎が作られた。今は上流にダムが作られ水量が調整されるので、もう洪水に見舞われることはないようだが。

 正午過ぎ、僕たちはカイロのダウンタウンからバスに乗り、ユキの住むナセルシティーに向かった。彼のアパートで昼ご飯を作って一緒に食べようという話がまとまったからだ。バスが郊外に進むにつれ、だんだんと市街の喧騒は収まり、道の両側の家々も清潔な佇まいになり、道路を走る車も、ボコボコの車や、埃だらけで本来の色の分からない車は少なくなってきた。

一時間足らず乗ったバスを降りる。まず、買い物をするために市場へ。この市場がなかなか楽しかった。露店が並んでいるのだが、実に新鮮なものが、安く売られている。どれだけ新鮮かと言うと、ヤギやウサギ、ガチョウ、ニワトリ、ハトなどは、まだ生きているのだ。ハトなどは、買ったらその場で、首をちょん切って、羽根をむしってくれる。一分前まで生きていた。これほど新鮮な肉はない。

物売りのお兄ちゃんたちも、結構人懐っこくて楽しい人たちだ。カメラを見ると「撮って撮って」言ってくる。カメラを向けるとポーズをとってくれる。撮った写真を見せてあげると、キャッキャッと喜んでいる。

意外だったのは、新鮮な魚を沢山売っていたことだ。妻のマユミも僕も、海に近い金沢に住んでいたので、魚を見ればどれほど新鮮か分かる。特に、エラと眼を見れば一目瞭然だ。その僕らの目からしても、魚は新鮮だった。目の下四十センチくらいのスズキを一匹買う。ユキとマユミは野菜を買っている。

歩いて十五分ほどのユキのアパートへ向かう。マユミとスミレは一度来たことがある。新興住宅地らしく、周辺には建築中のアパートが沢山ある。

ユキの部屋はアパートの一階。入り口で、門番のおやじさんに挨拶する。

「僕の両親と、妹だって言っておきましたから。」

ユキがそう言った。

 早速料理を始める。切れない包丁に泣きながら、スズキの鱗を取り、三枚に下ろす。魚を捌くのは一年間に訪れたガダルカナル島でよくやった。その時は、友人のG君が素晴らしい出刃と柳刃の包丁を持っていたので気持ちよくできた。やはり、料理は包丁が肝腎だ。

 僕が魚料理を作っている横で、ユキとスミレは野菜料理を作っている。市場で買った完熟トマトは甘くて美味しくて、ついついつまみ食いの手が伸びてしまう。一時間後、料理が出来た。スズキの唐揚げにライムと醤油とコリアンダーをかけて食べる。ユキは、ニンニクと唐辛子で味付けした、キャベツとトマトの炒め物。それとエジプトの米で炊いたご飯。どれもなかなかの味だった。昼食を食べ終わると、もう午後四時になっていた。

八百屋のおやっさん。

 

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