サンキュー、ユキ

ユキのアパート。皆で作った美味しい料理。いただきます。

 

 ユキのアパートの中が意外に寒いことに気がついていた。エジプトと言えども、冬は結構気温が低いのだ。(夏に訪れたことのある友人に聞くと、観光しようという意欲がなくなるくらい暑かったと言っていたが。)おまけに、どこの家にも暖房はない。寒い日は、あるものを全部着込んで、毛布に包まっているとユキが言った。彼は社交ダンスをやっている。そのヴィデオを見ているうちに、ユキとスミレがダンスを始めた。

 午後五時にアパートを出て再びバスでダウンタウンに向かう。夕方のラッシュで、一段と道路は混んでいる。バスはなかなか動かない。カイロの街には信号がない。それでも、「先にちょっとでも突っ込んで、他の車を停めたものが勝ち」の原則で、何とか交通の流れが維持されている。突っ込んでいって、相手が停まらなければ・・・ぶつかるだけだ。日本で神社や寺がどこにでもあるように、モスクが次々と現れる。

 ダウンタウンからマイクロバスに乗ろうとするが、さすがのユキも、ホテルの方角に向かう車を見つけることができない。諦めて地下鉄に乗ることにする。地下鉄を降りて、何台目かに来たバスに乗る。ホテルに帰ったら午後七時だった。帰り道、二時間かかったことになる。

 まだ腹が一杯で、夕食を食べる気にもならない。僕たち四人はホテルの部屋で、パリの空港で買った酒を飲み、エジプト産のポテトチップスを食べながら、色々と話をした。明日は、午前七時半の飛行機に乗ることになっている。朝四時半ごろにはホテルを出なくてはならない。九時になり、ユキが帰ることになった。

「ほんとに、ほんとに有難う。」

と彼に言う。彼は僕たち三人と順番にハグをして、エレベータの中に消えた。ユキと別れた十分後に、僕はもう眠っていた。道行く車のクラクションも全然気にならなくなっていた。

 その夜は下痢をして何度か目が覚めた。何度目かに起きると、午前三時四十五分。そのまま起きていることにした。マユミとスミレを四時半前に起こして、昨夜予約しておいたタクシーで空港に向かう。さすがにその時間帯だと、道はガラガラ。タクシーは時速百キロで夜のカイロの街をぶっ飛ばす。そして、たったの三十分で空港に着いてしまった。昨日は同じくらいの距離を二時間以上かかったのに。

 チェックインを済ませ、待合室に三人並んで腰をかける。少しウトウトして目を開けると窓の外は明るくなっていた。帰りの飛行機はエールフランスのボーイング七七七。三百人以上乗れる飛行機だが、何と満席だ。飛行機に乗り込んで、またしばらくウトウトする。目を開けるともう空の上だった。

「離陸した後、窓からピラミッドが見えたよ。」

とスミレが言った。マユミとスミレは映画を見ていたが、僕は手帳に旅行記の原稿を書き始めた。それをロンドンに帰ってからタイプしたものが、この文章なのだ。

市場で鳩を買うおばさん。女性の写真が少なかったもので。

 

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