トルコと日本の友好関係

犬もマラソンを応援。

 

トルコ人の男性はその後、僕と妻に、三杯目のビールを奢ってくれた。昔、イスタンブールを訪れた際にも気づいたのであるが、トルコ人は日本人に対して、友好的なのである。おそらく、何か歴史的な背景があると思うのだが、僕には分からない。

しばらくして、彼は店にいた若いやはりトルコ人の若い女性に金を渡した。しばらくして、若いお姉ちゃんは、白い袋を提げて帰ってきた。彼はその中から透明なプラスチックの容器に入った小鳥のすり餌みたいなものを取り出し、僕と妻に勧めてきた。

「ドイツ人はビールばっかり飲んでるけど、俺たちトルコ人は飲むときはいつも何かを食べるんだ。これはトルコの食べ物だ。食べてみてくれ。」

冷たくて少し湿った黒い塊を口に入れる。ゴマのような歯ごたえがあり、スパイスが効いている。不思議な味だ。妻が、その男性に何で出来ているのか聞いている。彼は材料を説明している。小麦粉にゴマ、それから、色々なスパイスを加えるらしい。

「その点は、日本人も同じだね。日本人も、酒だけは飲むことはない。必ず『アテ』、『肴』を食べながらだ。トルコ人と日本人の共通点に乾杯!」

僕はそう言って彼とグラスを合わせた。もう慣れてしまったが、ヨーロッパへ来て最初のうちは、こちらの人間が、ツマミなしで酒を飲むので驚いたものである。

彼と話をしてうちに、例えば家族の絆などで、トルコと日本では、結構社会的な共通点が多いことに気がついた。日本から遠く離れているけれど、トルコは基本的なアジアなのだと思った。

九時を過ぎ、帰ろうとすると、彼がまたビールを奢ってくれ、こちらも奢り返すうちに、九時半になった。店がだんだんと混んできた。不思議なことに気づく。新しい客が入ってくる度に、トルコ人の若いお姉ちゃんが、スルスルとその客に寄っていき、腕を絡ませて、何か親しげに話しかけている。さっき、トルコ料理を買いに行ってくれたお姉ちゃんたちは「夜のお商売」の方で、この店はそんなお姉さんたちの溜まり場だったわけだ。トルコ人の彼に礼を言って店を出てから、そのことを妻に指摘する。

「そんなこと、全然気がつかなかった。」

彼女は言った。しかし、今晩、トルコ人のお兄ちゃんと意気投合して、一緒に飲んだことは、全く予期せぬ、意外な展開であった。

 ホテルに戻る。ハーフマラソンのスタートは早く、八時半。明朝は、七時十八分、ケルン発の列車でボンに向かうことになっている。息子とは、七時に中央駅のホームで落ち合うことになっていた。朝寝坊の息子が、六時に起床して、七時までに中央駅に着けるか、何となく心配である。さすがに今晩は飲みに行ってはいないであろうけれど。

 フロントで朝食は何時からかと尋ねる。七時からとのこと。明日の朝食を諦めかけたら、「ランチパック」をお作りしましょうかと聞いてきた。好都合である。明日の弁当をお願いして、妻と僕は部屋に戻った。何か、やけに色々あった日だったと思いながら眠りにつく。

 

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