遅れてきた応援団

集まったワタルの応援団。

 

 ライン河の橋の上は、応援の人たちで鈴なりである。スタートしたランナー全員がやっと向こう岸に渡り終わったと思ったら、もう橋を逆方向に渡る先頭ランナーが見えてきた。赤いユニフォームのケニアの選手。八キロで既に二位とは一分以上の差をつけている。ワタルが現れる。ニコニコして手を振ってくれた。元気そうだ。その後、ライン河畔の十キロ地点で、再び息子を見る。四十五分で通過。予想以上の好ペースである。

 その後、妻と僕は、ゴールになるマルクトプラッツに移動した。ランナーは旧市街の石畳の道を五百メートルほど走ってから、「フィニッシュ」と書いた、空気で膨らませたゲートを潜っていく。ゲートの下には、マットが引いてあり、その中に仕込まれたセンサーが、靴に結び付けられたマイクロチップの情報を拾い、タイムを記録するのである。僕も二度、四十二キロを走り切り、あのゲートを潜った。その時の達成感は何事にも代え難い。快感は中毒になってしまうものがある。

 ケニアのランナーがわずか一時関余でゴールに飛び込み、その後三分後に二位のランナーが入った。その後、女性ランナーもボチボチと混ざり始める。十時五分、青いシャツが見える。まさかワタルがこんなに早く。一瞬目を疑う、妻が横を全力疾走で、何か叫びながら応援している。確かにワタルだ。慌ててカメラを構えて近づいてくる息子に向けて続けさまにシャッターを切る。さすがに苦しそうだが、かなりのスピードだ。彼は、「フィニッシュ」と書いたゲートに消えていった。

 雑踏と交通規制の中、苦労しながら妻と僕はゴールの反対側に向かう。三十分後に息子から携帯に電話があり、マラソンメッセのテントの中で待っていてくれとのこと。テントで待っていると、間もなく、ワタルは足を少し引きずりながら現れた。握手を求めながら、

「速かったね。あんなに早くゴールに来るとは思ってなかったよ。タイムはどうだった。」 

と聞くと、一時間三十一分とのこと。僕の最高タイムは、三年前に、厳しい練習に耐えた末の一時間二十七分。たった数週間練習しただけの息子に、もう四分に迫られている。

「仕方がないわよ、彼は若いんだから。」

と妻が言った。

 ケルンからの「ワタル応援団」がテントに到着する。チェコ人の女の子ふたりとリトアニア人の女の子は「GO、GO、WAZ」と書いた横断幕まで準備していた。彼女たちは先頭ランナーのゴールを見てから、コーヒーを飲みに行き、ワタルのゴールを見逃したとのこと。英国人のニック、カミラ、ミランダの三人がボンの駅に着いたとき、既にワタルは既にゴールしていた。つまり、応援団の誰も、ワタルの走っているのを見ていないのである。

「だって、ワタルがこんなに速いと、知らなかったんだもん。」

ひとりが言った。六人の応援団のうち、五人が可愛いお姉さんたち、羨ましい限りである。メダルを持ったワタルを真ん中にして、応援団と両親で記念撮影をした。

 

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