相撲場風景(その一)

 

 昨日が野球なら今日は相撲。またまた出かけてしまった。

三月は大阪で場所がある。京都に帰省中にちょうど大阪で春場所をやっていることは、ロンドンで既に知っていた。そして、日本相撲協会のホームページで、当日券が十分入手可能なことも。(つまり、最近は相撲の人気がないことも。)それで、今回は相撲を見ることは、出発前から計画されていたのだ。

子供の頃、野球と相撲の他には、スポーツ中継がほとんどなかったので、僕は結構テレビで相撲を見ていた。それが高じて、何度か、音声を消して相撲中継を見ながら、「上手投げ」とか「押し出し」とかの「決まり手」を自分なりに判断してメモしておき、翌日の新聞に書かれた「決まり手」と見比べるという遊びもやった。かなりオタクっぽい。「はたきこみ」、「引き落とし」「つきおとし」なんて引き技が結構難しかったのを覚えている。おかげで、今でもほとんどの決まり手は自分で言えるのだ。

ヨーロッパでも「ユーロスポーツ」のダイジェストで、相撲を見ることができる。最近は力士が皆大型化し、単に押したり引いたりするだけで、勝負が面白くないと思う。しかし、それでも今回、少なからぬ金を払ってまで相撲を見ようと思ったのは何故なのだろう。単に「話の種」かな。テレビでしか見たことのないスポーツを、初めてナマで見て、それまでイメージとずいぶん違っていたことがこれまで多かった。今回も何か新しい「発見」があるのではないかと思ったのだ。

ともかく、三月二十三日、父と昼食を済ませてから、僕は地下鉄とJRで大阪に向かった。一応、父も誘ったのだけれど、もうそんな元気はないと言う。今日は新快速なんてケチな電車には乗らない。新宮行き特急「オーシャンアロー」号である。(僕の持っているジャパン・レールパスは特急が乗り放題なのだ。)客席までトイレの臭いのする、余り乗り心地の良い電車ではなかったが。天王寺で降り、そこから大阪の地下鉄に乗り換え、大阪府立体育会館のある「なんば」に向かう。なんば駅を降りて地上に出るとすぐに、ちょん髷、浴衣姿の若い相撲取りがネソネソって感じで歩いているのに出会った。

体育館の表には「琴の若さん江」なんて書いたカラフルな幟が立ち並び、風に翻っている。入り口に歴代の横綱の名前の書いたゲートがしつらえてあり、玄関までの両側には、いわゆる相撲茶屋が並んでいる。その茶屋の前で、着物を着て、裾の縮まった袴を穿いた親父さんたちが暇そうに煙草を吸っていた。今日は十一日目だ。

椅子席で一番良い五千六百円の切符を買う。良い値段だ。最高は桟敷席で一万三千円。予想通り、どの席も「当日券あります」と書いてあった。入り口で、切符を渡すと、黄緑色のジャケットを着た若い女性が「席までご案内します」と言って先導してくれた。途中で、トレーニングウェアを着た、身体の大きな兄ちゃんとすれ違い、どこかで見た顔だと思ったら、「寺尾」だった。(今は年寄りで別の名前なのだろうが)案内された椅子席に座ったぼくは、それまで描いてきたイメージの違いに思わず「うへぇー」と叫んでしまった。

 

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