妹よ

 

 実の両親、兄弟姉妹の他に、家族の結婚によってできる「義理」の関係って、とても面白いと思う。生まれてから長い間、私は両親と姉と四人家族で暮らしていた。ところが、二十歳を過ぎてから、それに急激な変化が生じた。実の両親が離婚、父が再婚したことに継母ができた。姉が結婚して義理の兄ができた。妻と結婚したことにより、義理の両親と妹ができた。義理の妹が結婚して義理の弟ができた。姉が離婚して再婚して、また、もうひとりの義理の兄ができた。(ちなみに現在の「義理の兄」は年下である。)

 妻と結婚が決まってから、数回、妻の実家に泊まったことがある。夜寝る前に、妻の妹のチコちゃんが、パジャマ姿で洗面所に立ち、歯を磨いているのを見たとき、ちょっとドキッとし、その後、何となく嬉しくなったのを覚えている。妻と結婚することにより、妹ができたことで、何か二倍得をしたような気分になったのである。父が再婚したときも、それと同じような感情を持った。継母は、実母とは全くタイプの違う女性であった。その人と「親子」となれたことで、本来ひとりしかいないはずの母親が、ふたりに増えたようで、嬉しかったような気がする。ともかく、これまで他人だった人が、ある時を境に、突然「父」「母」「兄弟」になってしまうのは、エキサイティングな出来事である。

 金沢に着いた翌日の土曜日、私は義父母と妹、妹のダンナ、彼らのふたりの男の子たち(つまり甥)と、焼肉を食べにでかけた。義理の弟は、体格が良くスポーツ万能、働き者で、あっさりした性格、酒も強い。一年に一度か二度しか会わないが、そのわりには、結構話が合う。弟とふたり並んでいると、九十九パーセントの人が、弟の方が年上だと思うであろう。いつもは、酒を飲むと、もっぱら弟と話すことになるが、今回は、様子が違った。何となく、妹としんみり話すことになってしまったのである。彼女も、それなりに悩みや苦労を抱え、それを一所懸命に乗り切ろうとしている姿がいじらしかった。

 焼肉屋から外にでると、強い雨が降っていた。傘がふたりに一本しかなかったので、私はチコちゃんと一緒の傘に入った。彼女の肩を抱きながら家まで歩いて帰るとき、私は、二十数年前、洗面所に立ちパジャマ姿で歯を磨いていた彼女と、そのときの何となく得をしたような気分を思い出した。

 金沢を発つ前の夜、義父母と野々市という町にある温泉へでかけた。温泉と言うよりも、「郊外型銭湯」と言ってもよい。広い駐車場と天然の温泉(石川県ではどこを掘っても温泉が湧くみたい)、ちょっとした食堂がある。温泉で、私は義父と背中の擦りあいをやった。義父の背中を固く絞ったタオルで擦ると、消しゴムのカスのように、垢が出てくる。

「お父さんすごい垢ですよ。」

と言うと、

「背中なんか、滅多に擦ってもらったこと、ないからね。」

と義父は言った。温泉を出てから三人で寿司屋へ行った。義父は、背中が涼しくなったと、何度も呟いていた。義理の親父さんの背中を流す、これ、なかなか絵になると思う。 

 

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