自家用モノレール

 

ツツジとフジが美しい高野家。

 

五月六日、日本では連休の最終日、今日から三日間は金沢だ。朝一度父の家に寄り、デイサービスに行く父を見送ってから京都駅へ。十一時の「サンダーバード」で金沢に向かう。京都の天気は曇り。湖西線を抜け、敦賀から北陸線に入っても天気は変らない。列車の窓ガラスに時々雨の跡が走る。京都駅で「ビッグコミック・スピリッツ」を買う。「あぶさん」はまだ現役。しかし、いよいよ今年で引退らしい。久々に読んで、孫がいるには驚いた。

金沢駅には義父が出迎えにきてくれていた。義母は妹の婚家高野家へ、タケノコ料理の調理、配膳、給仕の手伝いに行っていて留守。義父の話では、その日の午後五時、高野家のタケノコ料理に三人、つまり義父母と僕の三人の予約が入れてあるらしい。つまり、今日の晩御飯は、別所名物「たけのこづくし」なのだ。

妻の実家に着いたのが午後一時半。義父は僕に五時まで何をしたいかと聞いた。僕は最近泳いでないので、プールへ行くと答える。実家から金沢市営プールまでは徒歩十分。歩くと言ったのに、義父は車でわざわざ送ってくれ、僕が泳ぎ終わるまで待っていてくれた。

千五百メートルほどゆっくり泳ぎ、すっきりした気分で外に出ると、義父は車の中で野球中継を見ていた。

「ずっと野球見てたんですか。」

と聞くと、最初は車を磨いていたとのこと。そう言えば、義父の車は買って十年経つのに、車体に一点の曇りもない。いつもピカピカ。同じく買って十年経つ僕のBMWとえらい違いだ。汚れてなくても毎日磨く、台所でも車でも。義父母に見習う点だ。

実家に帰って義父と色々話をする。これまで金沢の妻の実家で滞在したときは、話し好きの義母とばかり話をしてしまって、義父とじっくり話をする機会が余りなかった。そんな意味でも、なかなか貴重な時間だった。

五時に、別所の高野家に到着。玄関先に満開のツツジとフジが美しい。父が、

「高野さんにタケノコ運搬専用のモノレールがあるの、知っとったけ。」

と言った。

「えっ、モノレール。」

驚く僕を義父は、道路の反対側に案内した。確かに、そこには小さいけれど、モノレールがあった。一本の線路が、斜面を伝って竹林の上に向かって伸びている。線路の上は平らだが下にノコギリの歯形のギザギザがついている。かつて、信越線の軽井沢・横川間にはアプト式のレールが敷設されていたが、それと同じ原理。発動機の付いた車両は歯車をその波型のギザギザに引っ掛けて、上り下りをしていくのだ。

「こんな細い一本のレールの上に、重いものを乗せてかって、どうして左右のバランス取るもんかいね。」

と義父が言った。その疑問への回答を、ふたりとも最後まで見つけることができなかった。

 

自家用モノレール。山に向かって伸びている。

 

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