アミダ籤式京都の歩き方

 

 京都の実家に着いた後、父と話をする。午後また少しウトウトした。夕方に近くの銭湯、船岡温泉に行く。銭湯の湯船に身を浸すたびに、「今年も日本へ帰ってきたのだ」という実感が湧く。この銭湯、サウナの中にテレビがあるのだが、ちょうど阪神戦の中継をやっていた。野球中継も良いが、チェンジになるまで、サウナから出にくいのが困りもの。

 夕食の後、たまらなく眠くなり、八時には眠る。夜中の二時ごろに目が覚めるが、銭湯の帰りにコンビニで買ったワンカップ焼酎を飲んで無理やりまた眠る。次に目が覚めると朝の七時だった。朝食の後、またまたソファの上でウトウトしてしまう。十時にイズミからの電話で最終的に目が覚めた。かなりすっきりした気分。

 今回、日本で一眼レフのデジタルカメラを買おうと決めていたので、四条まで出かけることにした。基本的に、京都にいるときは、市内ならどこへでも歩いて行くことにしている。運動のためもあるが、歩くことにより辺りの景色をより良く観察できるからだ。道も、できるだけ大通りは通らず、小路を選ぶことにしている。古い家や、看板などを見ながら歩くのは楽しいもの。

 午前十一時に家を出て、大宮通を南へ向かって真っ直ぐに歩く。今出川通りを渡り、丸太町通りを渡る。しかし、それから少し言ったところで、それ以上まっすぐ行けなくなってしまった。二条城に突き当たったからだ。堀と石垣に遮られ、仕方なく、東へ折れ、不本意ながら大通りの堀川通りを南へ歩く。これまた大通りの御池通りを越え、三条通に出会うと、その細い道を東へと折れる。これすなわちアミダ籤式の歩き方。

 二条城に突き当たる直前、外国人の若い女性が、民家の玄関先にカメラを向けているのが見えた。彼女は旅行者には珍しく、ジーンズではなく、ゆったりとした足首まである巻きスカートを身につけていた。

「この家、何か特別なの。」

と英語で聞いてみる。

「ううん。『ガーデン』がきれいだから写真に撮ったの。」

「ガーデン?!」古い民家の玄関先に、これまた古臭い自転車が置いてあって、その横に盆栽が置いてあるだけなんだけど。「どこが『ガーデン』やねん」、「これのどこが面白いねん」と一瞬思った。しかし、その後、思い直した。僕も外国で、おそらくこれと同じようなものを面白いと思い、これに近いものを写真に撮っているんだろうと。おそらく、現地の人に「これのどこが面白いねん」と言う目で見られながら。

 阪神ファンなので「ジョウシン電気」でニコンのデジタルカメラを買う。タイガースのユニフォームにはジョウシンのマークが付いているので、反対に「ジョウシン」の店員さんは皆阪神タイガースのハッピを着ておられるのかと思っていたが、そうではなかった。

クレジットカードで払おうとしたら、本人確認の為の電話が英国までつながり、英語で色々質問されたのには驚いた。帰りは荷物が出来たので、さすがに歩く気になれず、四条から地下鉄に乗った。

 

 

自転車の空気入れ

 

 月曜日の予定。区役所へ行き。住民登録を済ませ、健康保険証を貰うこと。それと、病院に行って、昨年治療した心臓がちゃんと動いているか調べてもらうこと。その後、午後二時半の列車で金沢へ向かうこと。盛り沢山だ。区役所、病院を短時間で済ませるために、今日は自転車を使う。

実家の玄関には自転車が置いてある。しかし、父は高齢のためもう何年も乗っていない。タイヤの空気が抜けていたので、空気入れを見つけて「シュコシュコ」と空気を入れる。自転車は何台も変わったが、この空気入れのポンプは昔のまま。良く考えると、このポンプ、僕の「モノゴゴロ」がついた頃に、既に存在していた。と言うことは「五十年モノ」どころか、それより古いことになる。骨董屋に売れるかも。何故かその空気入れポンプに「郷愁」を感じてしまった僕であった。

予定通り保険証を入手、病院も早く終わって、十一時頃にはフリーになった。天気も良いし、まだ十分に時間があるので、病院の近くの鴨川に行き、川沿いの石のベンチに寝転がり、日光浴をする。

横の遊歩道を、和服を着た若い娘三人が、何やらペチャクチャと話しながら通り過ぎて行った。卒業式や成人式で着るような大層な着物ではない。あっさりとした、普段着的な着物。足元は素足に下駄履き。ティーンエージャーと着物。楽しいが、ちょっと意外な組み合わせはある。後日、母に聞いてみると、レンタルの和服を着て、京都を観光するのが若い人の間で流行っているそうな。和服を着ていると、安く入れる美術館などもあるらしい。

川の向こう側に、高校生風の男の子が、自転車の後ろに女の子を乗せて走っているのが見えた。女の子は横座り、片手で男の子の腰に手を回している。男女の自転車二人乗り。

古い記憶がよみがえる。高校三年の夏休み、僕は府立総合資料館の自習室で受験勉強をしていた。そこでカズミと会った。そして彼女を自転車の後ろに乗せて走ったことを思い出した。カズミは中学が一緒だったが、高校は別だった。特に仲が良かったわけでもない。でも、その時は確かに、図書館で出会ったカズミを後ろに乗せて、自転車で走った。どうしてだろう。

京都にいると、突然昔の記憶がよみがえることがある。思わずにっこりする記憶もあるし、ギャッと叫びだしたくなる記憶もある。京都に帰ると、京都を離れた三十年間が、まるでなかったように感じることがある。

 

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