地獄八景亡者戯聞き比べ − 鬼の船頭の料金表(二)

 

 文我の船に乗っていた変な死に方をした人、

A:「私はオリンピックの短距離ランナーです。身体を痛めつけるのが好きで、一度二百メートルを呼吸しないで走ろうとして、百メートルを過ぎたところでプチッとこちらへ来ました。」

鬼の計算:酸欠で死んだから、サンクの二十七、走った後で死んだので、「駆ける後、掛ける五」で一万三千五百円。

B:「女の子と高級ラウンジへ飲みに行き、見栄を張って、ヘネシーのロックを注文し、一気飲みしているときに、氷がゴクッと喉に詰まって死にました。」

鬼の計算:ごっく四十五、とロック五十四で、合わせて九千九百円。

 

 吉朝の船に乗っていた人、

C:「エイズで死にました。」

鬼の計算:「エイズ磐梯山は宝の山よ、笹に小金がエーまたなりさがる。スッチョイ、スッチョイ、スッチョイな、大原庄助さん、何で身上つぶした、朝寝朝酒朝湯が大好きで・・・」

鬼は最後まで唄うが、きっかけがつかめず。結局のところ、どうなったか不明です。

 

枝雀の船に乗っていた変な死に方をした人、

D:「カラオケで三波春夫の『チャンチキおけさ』を歌っている途中で死にました。」

鬼の計算:ちゃんちき(さんしち)二十七で二千七百円。(かなり苦しいなあ)

E:「ワタシ、ケニアの人間デス。ケニアノ山猟師、名前、六太夫。(うそつけ、それ、日本の名前やないか)私ノ仕事、ゴリラ捕マエルコトデス。ゴリラ捕マエニ行ッテ、反対ニ『ゴン』トゴリラニドツカレテ死ニマシタ。」

鬼の計算:そんなん料金表にあらへんがな。ゴリラ(五二が)十で千円。

「ワタシ、日本ノオ金アリマセン。ケニアノオ金。一ケニア、二ケニア(うそつけ)。」

F:「おれやおれやおれや。おれは勝負事に勝って死んできた。おれは強情者じゃい。わしゃ石と言う名じゃい。近所に住んでる鉄ちゅうのも強情物じゃい。ふたりで近所の風呂やで湯につかっていて、どっちが長いこと息をとめてられるか、ちゅうことで喧嘩になったんじゃい。どっちも強情者じゃい。一歩も引かんぞ。ブクブクっと湯の中に沈んで、どっちが長いことつかってられるかて競争したんじゃい。只でしても面白ろないさかい、何ぞ賭けようと言うことになったんじゃい。それでコーヒー牛乳一本賭けることにした。フルーツ牛乳は、おれ嫌いじゃ。・・・だんだん苦しゅうなってきて、もう負けたと思うたら、辛抱はするもんじゃい。向こうも限界にきっとったんじゃい。『ぶわぁ、負けた、参った、ご免』と謝りよったんで、『勝ったぁ』と思うたとたんに、ブクブクブクブクと、息するのん忘れて、そのままこっちへ来てしもたわい。」(ここは、桂ざこばの口調を思い出して読んでください。)

鬼の計算:フグと同じく四苦八苦の苦しみで一万八百円。

 枝雀の噺の中で、ここは前半のクライマックスです。特に「ケニアの山猟師」の登場からは、場内大爆笑の連続でした。ちなみに「山猟師の六太夫」は枝雀の十八番「池田の猪買い」に登場します。

 

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