地獄八景亡者戯聞き比べ − 念仏町ショッピング(二)

 

 一同が念仏町に入ってきますと、店の従業員が両側からやかましく客を呼んでいます。

「お茶湯(おちゃとう)持って来い、抹香(まっこう)くすべえ。」

これは、お茶持って来い、煙草盆持って来いという意味なのですね。それでは一軒の店に入ってみることにしましょう。

 

お念仏の値段ですが、演者によって随分違います。枝雀なんて、一番高いのが二千三百万円(!)。「日本で犯した罪なら何でもオーケーです」と言われても、そんなお金をパッと払える人は少ないでしょう。現金で払えない人たちのために、「合掌ローン」と言うのが用意されておりますが、払い終わるまでは「ローン地獄」に回らなければなりません。ここでは、この物語の再興の祖の顔を立て、米朝師匠による値段表を紹介することにします。

☆ 金箔の箱入り:八十万円、殆どの罪は帳消しになり、極楽から自動車で迎えが来る。

☆ 漆の箱入り:五十万円から六十万円

☆ 桐の箱入り:三十五万円から四十万円

☆ 普通の木箱入り:三十万円

☆ 紙箱入り:十六万円から二十万円

☆ 紙袋入り:八万円から十万円

☆ 時期外れと半端物(ワゴンに積んである):一万円

☆ アンパンマンとドラエモンの絵付き:三千円、ただし子供用

「念仏は娑婆で言う弁護士」という言葉がありました。私事ながら、最近、弁護士のお世話になることがあったのですが、いや、高いものですね。一日お付き合いいただいて、ウン十万円という、請求書が来ましたよ。カオルちゃん、儲けておられるのですね。(カオルちゃんは高校の同級生で弁護士をしています。)それ以来、私はまだ進路を決めていない高校生の末娘に、ロースクールへ行き、弁護士になることを勧めています。

 

とにかく安ければ良いという人たちは、念仏町の裏通りで、念仏の裁ち屑(たちくず)を買うことが出来ます。念仏を作る職人が、裁ち屑を籠に積み上げて売っているのです。一山、九百円、八百円、まるでちりめんじゃこ。中では、職人たちが、忙しく働いています。でも、念仏ってどうやって作るのでしょうね。作っている本人たちも具体的に何をしているか知らないというギャグ(枝雀と文珍)には笑ってしまいます。

店先に積み上げてある念仏は「びっくり念仏」、「湯念仏」、「居眠り念仏」。「びっくり念仏」は暗がりで突然誰かとぶつかったとき「ナンマイダブ」と唱えるお念仏。「湯念仏」は、ぬるめのお湯に浸かって、身体がホコホコと良い具合に温まってきたときに「・・はあ、ナンマイダブ」と思わず口から出るお念仏。「居眠り念仏」はお説教の途中で思わず居眠りをしてしまい、気がついたときに慌てて「ああ、ナンマイダブ」と唱えるお念仏。しかし、このようなお念仏では極楽へ行けるのかは、保障の限りではありません。やはり、きちんとしたものを買った方が良いようです。

 

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