さよならメアリー

 

わたしの寝ていた部屋。

 

 ベラハに着き、男の子たちは錆びた鉄の残骸に乗って遊んでいる。おそらく、第二次世界大戦のときに使われた車両なんだろう。わたしはメアリーとリツコさんと一緒に草の上に腰を下ろした。間もなく最後の「さよなら」を言わなければいけないと考えると、わたしの心は重かった。

わたしの村での滞在は、リツコさんのような協力隊の隊員に比べれば、うんと短いものだ。それでも別れは辛い。わたしがいなくなっても、村人たちの生活はごく普通に続くだろう。わたしがこの場所を訪れる前、わたしがこの村の存在について考えもしなかった以前にも、村人たちがごく普通に生活していたように。

わたしたちの隣に、シダの束を持ったひとりの女性が座った。そのシダをこれからホニアラの中央市場で売るのだと思う。この前ホニアラに戻ったときのように、自分も彼女と一緒に夕方にはまたこの場所に帰ってくるのでは、そんな錯覚に陥ってしまう。

もっと長くそこにいたかったのに、その日に限ってトラックは早くやって来た。慌ててリュックサックをトラックに乗せ、自分もトラックに乗り込む。何とか送りに来てくれた皆と握手はしたが、ひとりずつに「さよなら」を言う暇さえなかった。リツコさんもトラックに乗り込む。荷台から見下ろすと、そこにメアリーの姿があった。わたしは彼女にさよならを言っていなかったことに気づき、トラックを飛び降りると彼女に抱きつき、

「さよなら、メアリー」

と言った。彼女は泣き出し、言うまでもなく、わたしも同時に泣き出した。

 メアリーと別れるのが一番寂しかった。わたしがナモハイに滞在を始めた初日から、彼女はいつも親切で、冗談を言ってわたしを笑わせ、親身になってわたしの世話をしてくれた。最初の日、わたしがホームシックになっているのに気づき、最初に慰めてくれたのもメアリーだった。

「あなたが戦っているのは分かってるわ、でも心配しなくていい、あなたはその戦いにきっと勝つから。」

メアリーはそんなサインを送りながら、わたしの前をさり気なく通り過ぎてくれた。わたしは彼女を完全に信頼していたし、彼女がわたしを実の娘のように扱ってくれるのを楽しんでさえいた。

 わたしがまたトラックに乗り込んだとき、それを見ていたメアリーは本当に悲しそうだった。トラックが出発し、手を振る子供たちが見えなくなった。見えるのはジャングルとトラックの巻き上げる埃だけ。わたしはトラックの中で泣き続けた。泣くことで、その日ずっと感じていた不安と、悲しみから何とか解放されたかった。

 いつもの通り、リツコさんとわたしは、ホニアラの町の入り口でトラックを降り、そこからバスに乗り、「ドミ」に着いた。わたしは精神的に疲れ果てていた。シェークスピアの悲劇を全編見た後のような気分だった。

 

わたしを実の娘のように可愛がってくれたメアリー。

 

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