試験の結果

 

できたてのカサヴァ・プディングを試食する。

 

ホストファミリーと村の人たちと別れ町に戻ったその夜の気分を説明するのは難しい。一種のカタルシスとでもいうのだろうか。わたしは何となく晴れない、複雑な気分でGさん宅に戻った。

 先にも書いたが、Gさん宅には、夏の間だけ奥さんと子供さんが訪れておられる。一家は、わたしが発ったときと同じように暮らしておられた。ふたりの子供たちはPADIProfessional Association of Diving Instructors、ダイビングの免許を発行するプロダイバーの団体)のスキューバダイビングのライセンスを取るためのコースに通っているとのこと。「日本の家族」の雰囲気の中に戻ることは、マッケンジー家を離れ何となく浮かない気分のわたしにとって、別の意味でほっとすることだった。

 わたしがシャワーを浴びようとして廊下に出ると、Gさんが顔を出した。

「お父さんからメールが来てるよ。試験の結果が書いてあった。」

ASレベル(二年に渡る英国の大学入学資格試験の一年目の試験)の結果が出たのは数日前のことだ。わたしに代わって、父が学校へ取りに行ってくれることになっていた。

「お願い、まだ言わないで。」

とわたしが言う前に、Gさんは

「全部『A』だったって。」

と言った。

「やったあ。」

意外に良い結果。嬉しいのと驚きで、わたしはGさんの前で二、三度ピョンピョン跳ねた。この結果は、わたしがどこの大学に入るのかを決めるのに、つまりわたしの将来を決めるのに、とても大切なものなのだ。しかし、それについて今は余りあれこれ考えないで、とにかくシャワーを浴びようと思い、再び風呂場に向かって歩き出した。

 その夜は、Gさん一家と外で食事をすることになっていた。わたしは、それまでの間、日記をつけていた。試験の結果は確かに喜ばしいが、わたしの頭の中には、その日わたしが経験した「別れ」のシーンが何度も頭をよぎり、素直に嬉しい気分になれなかった。わたしは村で会い、今日別れてきた人たち、ひとりひとりの顔を思い出してみた。そして彼らの日課も。今頃、あの人はきっと川で水浴びをしているだろう、あの人はきっと食事の準備をしているだろう。

 そんなことを考えているうちに、急に猛烈に胃が痛くなってきた。その日は余りにも色々なことがあり過ぎた。その興奮とストレスからだと思う。わたしは、本来、過度の緊張と興奮とストレスを発散させるために、叫び、大声で泣き、辺りを走り回らければならなかったのだ。しかし、現実にそんなことはできない。最初、独りでオーストラリアの見知らぬ空港に着いたときにも、同じように胃が痛くなった。緊張と興奮が、直接、わたしの胃を攻撃しているのだと思う。

 

木の上から川に飛び込む女の子。

 

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