ジャングルウォーク

 

solomon241

川を渡るG君の四駆。「お願い途中で停まらないで。」と祈る。

 

 G君が隊員寮にいるO隊員に電話をしている。

「きみの任地を見たいという変な日本人がいるんだけど、きみが今日帰るなら、一緒に行ってもいい?」

と聞いているらしい。O隊員の返事は、

「ラッキー。」

とのこと。何故、彼女にとってそれが「ラッキー」であるのか、それも僕は後で知ることになる。

昼過ぎに、G君と僕はホニアラ隊員寮で、Oさんをピックアップした。G君の車で近くまで行って、そこから歩いて彼女の働く村へ行こうという計画だ。滋賀県彦根市の出身という彼女は、G君と僕の「共通語」、関西弁を話す、気さくで、優しそうな、ごく普通の女性だった。彼女は、こちらの中学校で家庭科を教えている。

彼女は、数週間に一度、買い出しにホニアラの街まで出てくると言う。どうやって、出てくるのと聞くと、

「ジャングルの中を三十分ほど歩いて、車が通れる道のある場所まで出るの。そこで、ホニアラまで行くトラックを探して、その荷台に乗せてもらって来る。」

と事も無げに言う。更に僕が突っ込む。

「そのトラックが見つからなかったらどうするの。」

「バスの通っている本道まで、三時間かかって歩くときもある。」

ヒエーッ。確かに、今日、G君の車に乗れることは、彼女にとって、とても「ラッキー」なことだったのだ。

 ヘンダーソン飛行場を過ぎ、本道を離れ、脇道に入る。一応車の通れる幅があるのだが、路面は最悪。ところどころぬかるんでいて、四輪駆動車でも、

「お願い、停まらないで。」

と祈りたくなる場所が何カ所もある。G君の運転技術のおかげで、何とか難所を切り抜け更に走る。川に出会う。橋などないので、車で突っ込んで行くしかない。水しぶきがフロントガラスを濡らす。本道を離れ、三十分、これ以上車は無理という場所に車を停め、そこからは鬱蒼としたジャングルの中の小径を歩く。人がひとり通れるだけの、言わば踏み分け道だ。ブリスベーンでのジャングルウォークの比ではない。僕はミネラルウォターとカメラを持っているだけだが、O隊員は重そうなリュックサックを担いでいる。男として助けてあげたいが、こちらも心臓の病気以来、そんな余裕はない。彼女は最初、サンダルを履いていたが、いつの間にか裸足で歩いていた。

「この方が歩きやすいですから。」

川を歩いて渡る。膝までの深さだ。川岸で洗濯をしている若い女性がいる。突然広い場所に出た。そこがOさんの働く、ヴェティバツ中学校だった。なかなか立派な建物と、良く整備された校庭に驚く。しかし、村はまだ先とのこと。校庭の脇の急な坂を上り、更にふたつの川を渡り、やっと彼女の住む集落に着いた。

ジャングルの中の開けた場所に、七、八件の高床式で椰子の葉葺きの家が建っている。庭に咲き乱れる熱帯の花が美しい。Oさんはそこで、村人と再会を喜び合っている。村人たちは僕らに手を振りハローと挨拶してくれる。村人と記念写真を撮る。

しかし、そこでゆっくりとしている訳にはいかなかった。空を見ると雲が広がりだしていた。もし雨が降り出し、道が更にぬかるめば、G君の四駆と運転技術をもってしても帰還は難しくなるだろう。G君と僕はO隊員と村人に別れを告げ、ジャングルの中を戻った。途中、川を渡るとき、川蟹を捕っている父子に出会う。独りの男性が僕たちを追いかけて来た。ホニアラまで便乗させてくれと言う。車が立ち往生したとき、押す人が多いほど心強いので、喜んで乗って貰う。幸い雨は降らず、僕たちとそのおやじは無事ホニアラの街に到着した。ホッ。

 

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クリスマス休暇を終え、村人との再会を喜ぶO隊員。

 

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