ユーロスター

 

セント・パンクラス駅で出発を待つユーロスター。

 

 一九九〇年、全長五十キロの英仏海峡トンネルが貫通、一九九四年より国際特急列車「ユーロスター」のロンドンとパリ、ブリュッセル間運行が開始された。英国側はウォータールー駅をターミナルにしていた。最初は思ったように乗客が集まらず莫大な損失を出していた。そのひとつの理由として、TGV型の車両用専用線を使用しているため、フランス側では時速三百キロ走行が可能であったが、英国側では在来線を使用していたため、英国内に入ったところで、スピードがガタ落ちという点があった。それを改善すべく、英国側でも専用線の建設が進められていた。しかし、全てに時間のかかるこの国の常、昨年、二〇〇七年になってようやく新線が完成した。

それにともない、昨年(二〇〇七年)十一月より、「ユーロスター」のロンドン側始発駅が、ウォータールー駅から、セント・パンクラス駅に変わった。新セント・パンクラス駅が開業した次の土曜日、僕は娘のスミレとロンドンの街へ買い物に出かけた。セント・パンクラス駅は、我が家の最寄り駅より十五分くらいの距離にある。そのまま家に帰る娘を電車に残して、僕は新装なったセント・パンクラス駅で降りてみた。

駅は、教会を思わせる、堂々たるゴシック建築である。古めかしい駅で、歴史映画の汽車の発車到着シーンには、いつもこの駅が使われていたものだ。外観は今も変わっていない。しかし、ユーロスター開業に合わせ、構内はすっかり改装され、昔の面影はまったくなかった。広いコンコースができ、モダンな店が並んでいた。

ガラス越しに、出発を待つ、ユーロスターの黄色い先頭車両が見えた。英国の伝統の香りを残す貴重な駅であっただけで、超モダンに造り変えられたのが、何となく残念。それでも、駅の雰囲気は、僕の旅情をかきたてるのに十分なものであった。

 駅の売店で僕は「トーマス・クック・ヨーロッパ鉄道時刻表」なるものを買ってしまった。「時刻表」を見ると手に入れたくなるのは、もはや僕の「本能」らしい。「トーマス・クック」によると、朝八時にロンドンを出ると、昼過ぎにはドイツのケルンに着くことがわかった。次回ドイツ・ケルン留学中の息子を、鉄道で訪れるのも悪くないなと僕は考えた。

 今回の復活祭の前後二週間日本を訪れることにした。その目的は、高齢の父の様子を見に行く事と、昨年亡くなった金沢の祖母に線香をあげにいくこと。しかし、昨年の秋、日本の新聞に載っていた記事が、ぼくの予定を変えた。それは埼玉県大宮市にオープンした鉄道博物館である。写真を見ると、昔懐かしいJRの車両がずらりと揃っている。昔の時刻表少年としては、是非とも訪れたい場所だ。しかも、大宮から三十分程度の宇都宮に、従姉妹のサチコが住んでいる。そこに泊めてもらえれば宿泊費もかからない。僕は休暇の日程に、鉄道博物館訪問と、宇都宮泊を付け加えた。

日本での鉄道博物館訪問を前に、僕は、まずヨークにある英国の国立鉄道博物館を訪れてみることにした。両者を比較してみるのも面白かろうと思ったからだ。ヨーク行きの列車は、セント・パンクラス駅の向かい側、キングスクロス駅から出ているとのことだった。

 

隣のキングスクロス駅では旧態依然のジーゼル機関車がインタシティーを引いている。

 

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