空港にて

 

  

マルメー駅の外観と構内

 

 五時半にスタンステッドに着く。ロンドンとケンブリッジの中間にあるこの空港は、バジェットエアラインと呼ばれる低価格の航空会社のメッカだ。並んでいる数十機の飛行機は殆どが、オレンジ色の尾翼のイージージェットか、濃紺に黄色のマークのライアンエア。同じ尾翼がずらりと並んでいるのは、それなりに壮観だ。

 

 これらの航空会社は実際安い。今回、英国、スウェーデン間往復で五十三ポンド。ちょうど一万円。チェックインもいたって簡単。カウンターに乗客名簿が置いてあり、搭乗券とか、荷物のタグはもう印刷してある。名前を確認して、名簿にチェックを入れ、搭乗券にボールペンで名前を書き入れて渡してくれる。それで終わり。一人当たり三十秒もかからない。これがコンピューターを使用した普通のシステムだと、便名と名前をコンピューターに入力し、座席を確認して、搭乗券と、荷物のタグの印刷されてくるのを待ち・・・最低でも三分はかかるだろう。とことん経費を切り詰めなければならないこれらの低価格航空会社で、コンピューターを「使わない」ことにより、その目標を実現しているのが、コンピューター会社の社員の一人として、とても興味深い。

 

 飛行機の座席は自由席。食事と飲み物は有料。だから誰も買わない。僕も昨夜自分で作っておいたシソと塩昆布の握り飯を食べ、持参したミネラルウォーターを飲む。基本的にスチュワーデスの機内での主な仕事は、食事と飲み物のサービスだろうから、それがないスチュワーデスは一体何をしているんだろうと不思議に思う。トイレに立った際見てみたら、彼女たちは熱心に雑誌を読んでいた。

 

 七時にスタンステッドを発った飛行機は、二時間弱の飛行の後、下降を開始した。スウェーデンの地面が近づいてくる。天気は良い。遠くにデンマークとスウェーデンの間に架かる長い橋が見える。地面はどこまでも平らな感じ。太陽が眩しい。地面に雪はないが、池や湖が凍っているので、おそらくかなり寒いのだろう。

 

 飛行機はスツルップ空港に着陸。この空港もマンケルの小説によく登場する。主人公、クルト・ヴァランダーはストックホルムに住む娘のリンダや、来客をしばしばこの空港で送迎する。第四作の「微笑む男」では、最後に小型機で国外への逃亡を図る犯人と警察の大捕り物がここの滑走路で行われる。第五作の「誤りの捜査方針」では、少年によって殺された父親の死体が、この空港の工事現場に棄てられる。

 

 空港の建物は黄色く塗られている。白く塗られたコメット機が消火訓練用に置かれていた。入国審査でどこへ行くのかと係官に聞かれ「イスタード (Ystad)」と答える。係官は「イースタード」と「イー」を伸ばして言い直した。「イースター」復活祭に軽く「ド」を足す感じ。まず、目的地の正しい発音が分かったところで、今度はインフォメーションの女性に「イースタード」へ行くにはどうすればよいのか聞いてみた。答えは、バスも電車もないと、そっけない返事。タクシーで行くか、一度百八十度反対方向のマルメーに出て、そこから電車乗ればという提案。急ぐ旅でもなし、僕は一度マルメーまで行くことにした。

 

  

スコーネ交通の電車、外側も内側も明るい紫色。

 

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