コラボとコンサート

 

ミニ・コンサートの演奏者の面々。ヴァレンティン(先生)、フレッド、僕、スミレ、スマン、トリキシー。

 

 今回の旅は、結果的に「音楽の旅」になってしまった。意外な場所で、意外な人の奏でる音楽に出会うことができたのだ。

 日本へ旅立つ三日前、四月二十六日、末娘のスミレと僕がピアノを習っているヴァレンティンの家で、発表会があった。「ミニ・コンサート」と呼ばれているその発表会は、年に二回あり、大人の生徒と子供の生徒では日時が違う。バリバリの現役ティーンエージャーと一緒に弾かされたのでは、大人が萎縮してしまうといけないから、という先生のご配慮なのだろう。現在のところ大人の生徒は、フレッド、トリキシー、僕の三人だけ。それじゃ余りも早く終わってしまうので、今年十八歳になったスミレと同級生のスマンが大人の部に参加し、五人の演奏、プラス先生の模範演奏というプログラムになった。

「ええっ、パパと一緒なの。やりにくいなあ。」

とスミレは言う。それはお互いさんでござんす。ともかく、発表会では、半年練習したショパンのノクターン第二番と、グリークとカバレフスキーの曲を演奏。カバレフスキーは途中で止まって弾き直し。ともかく弾き終わって、最初の感情は安堵感だった。聴きにきてくれた妻のマユミも、

「ノクターンはよかったわよ。」

と褒めて、いや、慰めてくれた。「トリ」で登場したスミレは、結構上手に弾いていると思ったのだが、本人は満足していない様子。終わってからブツブツと言っている。ともかく、発表会が終わってから、日本での休暇が過ごせるのは、精神的にとても良いことだ。

 京都では、友人のサクラと「コラボ」をすることになっていた。僕がピアノを始めたのは三年前だが、彼女も昨年からヴァイオリンを再開し、今度会ったら「コラボをしようぜ」というのがふたりの誓い。ところが彼女から楽譜が届いたのは日本を発つ二週間前。シューマンの「トロイメライ」を選んだのだが、僕は発表会の練習もあり、ピアノのパートは完全に練習不足での「コラボ」となってしまった。

 サクラとのコラボの他に、今回は全く意外な展開で別に三つの「コンサート」を聴くことができた。まずは、高校の同級生のトモコと彼女の娘さんユカのコンサート。そして、サクラと妹のイズミのヴァイオリンとピアノの合奏。最後は、母の妹、チズコ叔母のピアノ演奏だ。これらは全く、偶然、「運命のいたずら」で聴くことになったものである。

 結果的に言って、それらの演奏を聴いて僕が思ったことはふたつ。第一に「まだまだ修行が足らん」ということ。ショパンが一曲弾けるようになったことで、慢心してはいけない、上には上がある。第二に、ひとりで弾くよりも、誰かと一緒に弾くことが、いかに楽しいかということ。

 アムステルダム空港で、生まれて初めてジャズのCDを買った。それまではクラシックと落語以外は買ったことがなかったのに。飛行機の中で聴いていたジャズはなかなか新鮮。今回の日本行きは、僕の音楽に対する眼を、少し開かせてくれる旅でもあったわけだ。

 

府立文化芸術会館での発表会でエレクトーンを弾くユカ。

 

<次へ> <戻る>