天橋立股覗き

 

コトコトとやってくる北近畿タンゴ鉄道のディーゼルカー。

 

文殊堂の中を通り、橋をふたつ渡り、天橋立を向こう岸に向かって歩く。さすがに連休中の観光地とあって、木津温泉と違い、人出が多い。天橋立は子供の頃一度来たことがある。思っていたより結構長い。全長四キロ以上あり、端から端まで歩くと一時間ほどかかった。駅前に貸し自転車屋があったが、この距離を考えるとうなずける。

途中、ここを訪れた俳人、歌人の句碑、歌碑がある。左側は松林、右側は砂浜なのだが、砂浜は人工の堤防によりノコギリ状の形をしている。おそらく、侵食を防ぐものなのだろう。向こう岸に近づくにつれて、人が少なくなる。

向こう岸で、スキー場にあるようなリフトに乗り、丘の上に立つ。そこは「股覗き」で有名な場所とのこと。「股覗き」とは最初天橋立に背を向けて足を広げて立ち、身体を屈め、股の間から天橋立を上下逆に眺めるのである。そのための台までこしらえてある。何故このようなことをやるようになったのかは分からない。実際やってみると、パースペクティブが変り結構面白い。カサネも最初は恥ずかしがっていたが、最後にはやった。母も試してみて、しきりに感心している。リフトは往復で六百円、結構高いが、眺望を考えると、その価値はあると思った。

さすがに四キロの道を歩いて駅まで戻る気にはなれず、帰りはモーターボートに乗ることにした。海から見る天橋立もなかなか良い景色である。モーターボートはわずか五分で文殊堂の前に着いた。「ちくわ」を焼く屋台の前に、人垣ができている。

駅に着くと京都行きの特急「はしだて六号」が停まっていた。売店で缶ビールを買い、ふたを開け、待合室のベンチに置いたとたん、ベンチが平らでなかったと見え、缶ビールが床に転がり落ち、辺り一面ビール浸し。

「おじちゃん、何回ビールこぼしたら気がすむと。」

とカサネが博多弁で呆れている。誰かが滑ると危ないので、売店のお兄さんに頼んで、モップで拭いてもらう。

「どうもすみませんね。」

とお兄さんに謝る。

列車の中で、ずっとカサネと話をして過ごす。カサネは若いわりには人生経験が豊富ので、相談相手として結構役に立つ。ふたりでお互いに「明るい悩み事相談室」をして、京都までの二時間余の時間を過ごした。来るとき一緒だった「いちゃいちゃカップル」が、やはり同じ車両に座っていた。

午後四時に列車は京都着。昼飯を食っていなかったので、駅ビルのレストランで、母の奢りの中華料理を食べる。その後、大阪へ帰るカサネと別れた。

こうして、「ひなびた温泉を訪ねる」という、今回の一時帰国の目的のひとつが完遂した。自分でも楽しかったし、母も満足してくれたよう。何が一番良かったかと母に尋ねると、「股覗き」という返事が返ってきた。僕は夕日かな。カサネは何だろう。

 

これが正しい股覗き。専用の台まである。

 

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