ワラビーに出会う

 

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ワラビーは人が近寄っても逃げない。

 

 ブリスベーンまではやってきたが、そこからソロモン諸島に渡れるかどうか、まだ百パーセントの確信はなかった。それには理由がある。

ソロモン諸島では二〇〇〇年に、部族間抗争が激化、内戦状態となり、外国人は全て退去している。その後、オーストラリア軍を中心とした平和維持軍が派遣され、一応の平静は取り戻し、日本からの協力隊の派遣や援助も復活した。しかし、二〇〇六年の四月に再び暴動が起き、中国系の住民が焼き討ちされている。そして、今年四月の地震と津波の被害。日本外務省によると「訪問は避けるべき」地域。おまけに、G君の情報によると、一週間前に国会でそれまでの首相の不信任決議が可決され、政情は混迷している。その上、ブリスベーンと首都ホニアラを結ぶソロモン航空はたった一機しか飛行機を持っていない、「無事飛んだらラッキー」なエアラインだと言う。

 判断は全てG君に任せていた。彼が、ソロモン諸島に渡ることが危険だと判断した場合、K子さんに連絡が来ているはず。しかし、今のところその連絡はないとのことだった。

「私たち家族はクリスマスの間、ゴールドコーストのアパートメントで過ごすのよ。モトがソロモンへ行けなかったら一緒にゴールドコーストへ行こうよ。とっても良い所よ。」

K子さんはそう言ってくれる。うーん。これで、どちらに転んでも楽しい休暇になることは間違いない。

 昼から、K子さんとふたりの子供たちと、「デイディ・ヒル・コアラ・パーク」へ行った。コアラは、屋内に立てられた木の上にいるのだが、それほどよく見えなかった。灰色の毛皮のようなものが、木の股の間にうずくまっているのが見えただけ。それよりも、自然公園の中にいたワラビーが可愛かった。立ち上がると約四十センチ、小型のカンガルーのような動物なのだが、人なつっこく、傍に行っても、身体に触っても逃げない。移動は、カンガルーのようにピョンピョンと跳んでいく。レオは喜んで、ワラビーを追いかけていた。不勉強だが、僕はワラビーなる動物の存在をその日までは知らなかった。時々、カンガルーも自然公園の中に現れるそうだが、その日は見ることができなかった。

 「コアラ・パーク」を出てから、ショッピングモールへ。G君に土産のリクエストを聞いたとき、彼は、スノーケリング用の水中メガネと、ダイビング用の靴、フィン(潜水用足ひれ)を買ってきてくれと答えた。それらは現地で僕が使った後、G君の家族や友人が来たときの予備となるらしい。冬のロンドンにそんなものは売っていない。それでブリスベーンで調達することにしていた。K子さんに連れて行ってもらったスポーツ用品店で、無事目的の物を購入する。

 まだ夕方まで少し時間があったので、子供たちがいつも遊ぶ「ダッキー・ポンド(ガチョウのいる池)公園」で時間を過ごす。エリーとレオは公園の中を喜んで走り回っている、ニワトリくらいの大きさの、白い、長い嘴と足を持った鳥が、辺りを走り回っている。池を見ると、体調三十センチ、イグアナの小型のようなトカゲがいる。オーストラリアは、変わった動物のいる場所だと思った。

 

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そして、カンガルーのように跳ねる。

 

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