思わぬ同乗者

 

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飛行機の中から美しい珊瑚礁が見える。 

 

 夏休みの始まった最初の日曜日ということで、ブリスベーン空港は混んでいた。出国審査には長い列ができていた。やっと順番が回ってきて、バスポートと切符を見せると、審査官のお姉さんが例によって笑顔で、

「ハブ・ア・グレート・デイ!」

と言ってくれる。この明るさ、陰気くさい英国や日本の入出国係官は是非見習って欲しいものだ。同じ仕事なら、できれば楽しくやろうではないか。

 ソロモンエアライン、ホニアラ行き七〇一便の出発する八十七番ゲートに向かう、横の八十五番ゲートから日本行きの便が出るらしく、辺りにやたら日本人が多い。改めて、ブリスベーン、ゴールドコースト地域が観光地であることを知る。

建物から少し離れた場所に白い機体に「OZ」と書いた、ボーイング七三七型機がポツンと停まっている。あれが僕の乗る飛行機らしい。

 搭乗の際、前に並んでいた女性のパスポートが見えた。何と日本のものだ。

「ええっ、僕以外にソロモン諸島へ行く日本人っているの。」

とその時は正直驚いた。ガダルカナル島は、間違っても観光客が行くような場所ではない。(日本外務省は、出来れば行くなと言っている。)お聞きしてみると、ご主人がやはりG君の勤めるJICA(国際協力機構)の職員で、G君と同じくソロモン諸島で単身赴任をされていると言うことだった。これからご主人を訪ねて行かれるところとのこと。後で分かったことだが、その女性はG君の上司、W所長の奥様だった。

搭乗時間になると、飛行機まで百メートルくらいを歩いて行く。その女性、つまりW夫人は僕と並んで飛行機へ向かって歩きながら、

「雨が降ったらどうするんでしょうね。」

と言った。きっと、天気の良いこの土地では、誰もそんなことを考えないのだろう。

W夫人と僕は隣の席だった。同じ日本人と言うことで、航空会社が気を利かせてくれたのかも知れない。飛行機の中で色々と話しをする。十五年前にもWさんご夫婦はソロモン諸島に住んでおられたことがあり、何と、奥さんは最初のお子さんをソロモンで出産なさったとのこと。それもすごい経験だと思った。

 ボーイング七三七機は、二百型、かなり旧型のものだった。こんな飛行機が、まだ使われているとは思ってもみなかった。後でG君に聞いたのだが、ソロモンエアラインは、最初で最後の一機を今年売り払ってしまい、今は借り物の機体で運行しているとのことだ。

飛行機は青い海の上を飛んでいく。こんな美しい青さを僕は生まれてこのかた見たことがない。第二次世界大戦中、この周辺で戦った日本軍の若いパイロットたちも、この青い海を見ていたのだろう。途中でいくつかのサンゴ礁が見える。青い海に、薄緑色で書いた一筆書きのようだ。湧き上がる積乱雲。この海で亡くなった多くのパイロットたちと僕は同じパースペクティブにいるのだ。そう思うと、神妙な気分にならざるを得ない。

 

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空から見たヘンダーソン飛行場。

 

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