金沢のエチオピア

 

東の廓にあった古いお店。

 

 国際交流ラウンジは金沢城の近くある。僕が金沢大学に通っている頃は、文学部のキャンパスは金沢城内にあった。今は郊外、山の中のキャンパスに移転しているが。

学生のころ通った道を自転車で辿ってみる。城の周りを半周し、橋場町に出て、そこから、東の廓を通り、浅野川に沿って走る。古い歴史を感じさせる家並みである。さすがにこの辺りの道は変わっていなので、走っていても見当が着く。浅野川を渡り、坂を上がり小立野に出る。坂を下り犀川を渡り、また坂を登って泉野に出る。坂の多い街を自転車に乗っているとなかなか良い運動になる。

僕は金沢に八年間住んでいた。久しぶりに訪れると、結構良い街に住んでいたんだなと再認識させられる。金沢の良さは「さりげなさ」である。歩いていると、さりげなく、古い町並みに出会い、歴史に出会う。これからも、町の名所を、観光のために余り仰々しく強調しないで、さりげないままにしておいて欲しいと思う。

その日の夜、義父母と一緒に回転寿司へ行く。「回転寿司」と言っても、海が近く、舌の肥えた人の多い金沢では、ネタが新鮮で侮れないのである。

「イクラでも腹いっぱい食べるこっちゃ。」

「お義父さん、それシャレなの。」

さすがに寿司ばかり食べていると腹が膨れるので、刺身をもらうことにした。

「白身を見繕って。」「今度は、背中の青いやつ。」

と注文すると、板前さんが刺身にして長方形の塗りの板に乗せて出してくれる。ここまで来ると、普通の寿司屋と変わらない。白身魚の盛り合わせの中に、見慣れないやつがある。食べてみると結構旨い。

「お兄さん、この魚何なの。」

と板前さんに聞く。

「エチオピアです。」

「エチオピアから輸入してるの。」

「ううん。金沢産のエチオピア。」

どうして、近海産の魚に「エチオピア」なんていう名前がついているのだろう。これは謎である。後で調べるとスズキ目シマガツオ科の魚とあったけれど。まあ、美味しければ名前なんてどうでも良いのかも。

 三月十九日。水曜日。前夜寿司を食いすぎたのか胃が重い。朝起きて犀川まで散歩に出たが腹が減ってこない。朝食はパスさせてもらう。日本にいる間は一日二食くらいがちょうど良い。全てが美味しいので、ついつい食べ過ぎてしまうから。

 昼から、義母とふたり、近所の金沢市営プールへ出かけた。僕が千二百メートルほど泳いでいる間、義母は隣のコースをせっせと歩いていた。水の中を歩くって、すごく疲れる。泳ぐほうがどれだけ楽なことか。でも最近の日本の流行なのか、沢山の人が水中を歩いていた。

 

左側がエチオピア。

 

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